営業を継続的に成果が上がる組織にするためには、人材育成や研修が必要です。これらの取り組みをまとめてセールス・イネーブルメントと呼んでいますが、実際にはどのような方法で取り組むのかわからない人もいるでしょう。
セールス・イネーブルメントは、継続的な営業が求められる現代において、高い注目を集めています。そしてこれを実現するためには、具体的な手法まで理解しておく必要があるでしょう。
本記事では、セールス・イネーブルメントの概要や注目されている背景、具体的な手法や成功事例について解説します。セールス・イネーブルメントを学ぶための書籍についても紹介しています。ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
セールスイネーブルメントとは、企業が実施する営業活動において、単発ではなく継続的に成果を上げていくことを目的として、営業組織の強化や改善のために実施する総括的な取り組みのことです。簡単に言えば、営業活動をより強固なものにするためのさまざまな取り組みとなります。
今までは、複数の部署が独自に、それぞれの営業活動に取り組んできました。しかしこれでは継続的な営業成果を上げることができないという欠点があります。セールス・イネーブルメントは、従来バラバラであった営業活動を俯瞰的に捉えて、それらを統合して高い成果を生み出そうという目的で実施される施策です。
セールス・イネーブルメントが注目されるようになった背景には、次の3つの要素が絡んでいると言われています。
従来の営業手法を採用し続けた結果生まれた問題解決のためという側面と、将来的な意味合いで注目されている側面の両面があります。それぞれどのような利用なのか、詳しく掘り下げてみましょう。
多くの企業の営業部が抱える問題として、成果を出している営業マンの営業活動が可視化できていないというものがあります。改善しようという動き自体は見られるものの、実際に成果につながっていない営業部も少なくありません。言い換えれば、営業が属人化してしまっており、営業部門としての成果発表の糸口がつかめない状態になっているのです。
これらの状況を打開すべく、セールス・イネーブルメントの考え方に注目が集まったとされています。セールス・イネーブルメントでは、改善すべき施策を総合的に設計し、営業部全体の目標達成の状況や貢献度を数値化する取り組みです。この改善策の中には、属人化して可視化できない問題も含まれます。これらを改善施策に組み込んでしまうことで、営業の属人化を防ぐとともに成果発表の糸口をつかめるようになるかもしれません。
セールス・イネーブルメントが注目されている背景には、各社の営業部が抱えている問題だけではない「顧客側の問題」もあります。インターネットの普及や価値観の多様化に伴って、顧客の需要は細分化されてしまい、複雑になってしまいました。
この問題に対して営業部門だけで解決しようというのは難しく、営業とそれを取り巻く部署との連携が求められるようになりました。マーケティング部から提供される情報を、営業部がフル活用することで顧客の複雑化した需要に対しても対処できるようになるという考え方です。
従来はマーケティング部が情報を営業部にあげても、うまく活用されずに顧客を取りこぼしてしまうという結果がありました。これらの事態を防ぐためにも、改善策を全体で構築するセールス。イネーブルメントが注目されるようになったのです。
ここまで紹介した2つの注目された背景を総合した形になりますが、今後は競合他社に勝つための施策として、セールスイネーブメントがより一層重視される可能性があります。大手企業はすでにこの動きを見せており、CRMやSFAなどの営業支援ツールの導入を開始している企業も増えています。
大手企業以外にも広まりつつあり、新たな営業戦略としてスタンダードになる可能性もあるでしょう。効率的に営業活動を進めて勝ち残るためにも、早急にセールス・イネーブルメントを実施できるような環境を整えることが求められています。
セールス・イネーブルメントを実施することで、営業活動の最適化や効率化が見込めます。総合的な改善策を構築する上で、マーケティング部や営業部が持っている情報を共有したり数値化して検証したりするため、自社のトップセールスマンがどのような営業活動を行っているのかを定量的・定性的の両面から可視化できるようになるためです。
ここで得られた情報を他の営業マンが応用したり、新人教育に活かすことで、営業力と組織力の強化の両方で高い効果を発揮していくでしょう。全員が継続して高い効果を発揮できる営業施策を講じれば、効率的に売り上げの増大や企業の成長にコミットできるようになります。
セールス・イネーブルメントを成功させるためには、それを支援してくれるツールであるCRM及びSFAが必須です。CRMとSFAは、簡単に説明するとそれぞれ以下の通りです。
人力でもできないことはありませんが、現実的にかなり難しいでしょう。また、CRMやSFAを入れたからと言って、それだけでセールス・イネーブルメントに繋がるわけではありません。それぞれどのように活用していくのか、詳しく見ていきましょう。
CRMやSFAを活用することで、営業活動の現在の状態や顧客の情報を数値化して管理できます。この数値が、セールス・イネーブルメントを成功させるかどうかの鍵を握っています。
具体的には営業活動の仕組み化を目指すのがセールス・イネーブルメントであり、仕組み化した先に効果を最大化させるためにも、具体的な数値目標は必須です。これらの情報を抽出できるのはCRM・SFAからであるため、履歴内容の確認や情報の蓄積の目的と合わせて必要と言われるようになったのです。
セールス・イネーブルメントを成功させるひとつのポイントとして、あらゆる情報の数値化と計測があります。感情や属性などで測る定性的なデータも時には必要ですが、営業効率を最大化させるために必須となるのは数値です。これらを知るためにもCRMやSFAは必須と言われているのです。
CRM・SFAは、売上予測や受注率、案件の進捗率などを数値化して可視化できるようになっています。これらの情報はセールス・イネーブルメントを成功させるために必須の情報であり、重要な鍵を握る要素です。人力で算出しようと思うと相当な手間と労力がかかるため、多少コストがかかってもCRMやSFAを導入し、活用するのがベストでしょう。
CRM・SFAの活用と同時に、次の2つの手法もセールス・イネーブルメントの手法として有名です。
これらをうまく組み合わせることで、より高い成果につながる可能性があります。具体的にどのようなことを実施するのか、詳しく見ていきましょう。
セールス・コンテンツとは、商品やサービスを販売するためのコンテンツのことです。主にデジタルコンテンツの作成や更新においては、そのコンテンツを管理するツールを活用すると、コンテンツの内容の拡充や管理が手軽になります。
アナログな部分に属する提案書などの資料は、営業マンそれぞれの力量に任せるのではなく、全営業担当者が活用できるものを作成するといいでしょう。同じものを使って必要なコンテンツを開発したり、成果を測定したりして営業活動の効率化や効果向上につなげることができます。
営業担当者の教育研修やトレーニングプランを見直すことも、セールス・イネーブルメント成功の鍵を握ります。営業担当者の教育についてはOJTに頼ってしまう企業もあるかもしれませんが、その成果がどう出るかは現場の統括責任者の力量に依存する割合が大きいと言われています。
OGTでも成果を出そうと思えば出せますが、1番は営業現場で得たノウハウを収集して自社で教育研修やトレーニングプランの内容を再構築することです。実践に基づいて得られた知識であるため、自社の営業担当者の育成に大いに役立つことでしょう。
2010年代の初期に概念が生まれたセールス・イネーブルメントは、現在多くの企業で実践する動きが見られます。中にはすでに成果を上げており、成功事例として紹介される企業も出てきました。
本記事では、特に有名な3社のセールス・イネーブルメントの成功事例を解説します。
法人向け福利厚生サービスを展開している株式会社ベネフィット・ワンは、若手営業マンの戦力化を実現し、事業部全体で前年比360%の受注件数アップに成功しました。
もともと組織力アップと営業活動の可視化と効率化の課題を抱えていた同社は、特に短期間での人材育成やマネジメントに課題を感じており、その課題を解決するためにCRMとSFAの活用を始めました。主にタイムライン機能を活用して、トップセールスマンのノウハウをタイムリーに共有。その結果、成功事例だけではなく失敗したケースに関する情報も蓄積することができ、営業マン全体にノウハウという形で提供されたのです。
その結果、若手営業マンがすぐに戦力として活躍できるようになり、驚異的な成果につながったのです。また当初懸念されていた残業時間増加の問題がありましたが、情報共有や報告業務がタイムラインの利用によって効率化されたため、導入前と比較して30%残業時間を減らすことにも成功しています。
BtoB向けにCRMツールを販売しているHubspot社は、セールス・イネーブルメントの手法を活用し、人材の採用で大きな成果を出した事例として知られています。
セールス・イネーブルメントの実施前に行った社内調査の結果、同社の従業員はコーチング応用力や事前準備、好奇心といった項目がクロージング力やロジカルシンキングよりも重要視している事実が判明しました。この事実をもとに、同社の従業員は上司からのフィードバックを素直に聞ける社員が成果を残してくれるという仮説を立て、面接にコーチング応用力を測るための項目を追加したのです。
その後、この手法で採用に至った従業員の成果を追いかけていくことで、この選考方法が間違っていないかの考察をしました。このように顧客に対してだけではなく、企業の生命線である人材採用にもセールス・イネーブルメントの考え方は活用できるのです。
日本国内で最大の製造業であるキーエンスでは、営業担当者の均質化に力を入れており、その一環で営業ナレッジを社内にある営業ポータルサイトに集約しています。
キーエンスの営業マネージャーのスタンスは独特で、営業担当者に同行するわけではなく、どのナレッジを活かすのかを指導するスタイルです。敢えて同行せずにナレッジだけを提供することで、営業マン全体が売れるしくみを肌で理解できるようにしています。
そもそも、キーエンスが高収益を実現している背景には、新商品の存在と営業力の強さが挙げられます。キーエンスにとって営業マンの均質化は至上命題であり、欠かすことができないポイントなのです。
セールス・イネーブルメントを学ぶには、成功事例を知る以外にも、書籍を通じて学ぶという方法があります。最後に、本記事でおすすめの書籍を2冊紹介します。
(引用:Amazon)
バイロン・マシューズを始めとするミラー・ハイマングループの関係者数名が記した、セールス・イネーブルメントを学ぶための実践的な1冊です。ミラー・ハイマングループの事例を用いて解説されており、即実践につなげられる書籍として有名な本でもあります。
(引用:Amazon)
セールスフォース社の山下貴宏氏による著書です。同氏はセールスフォース社においてセールス・イネーブルメントを主導した実績を持っており、内容は営業担当者の研修や教育が中心です。人材育成をする側の立場の人にとっては、大いに参考になる書籍と言えます。
セールス・イネーブルメントが注目される背景には、それまで役割がセグメントされていた社内の部署が一丸とならなければ、今後継続的に発展することが難しい時代に突入したという事実に相当します。この状況を打開しなければ、今後ますます同業他社に溝を開けられてしまう可能性があるでしょう。
CRMやSFAの導入に費用はかかりますが、それ以上に大きな成果につながる可能性も捨てきれません。もちろん、明確な目的を持って実施するのがベストであるため、無意味に導入しても成果には繋がらない可能性は十分にあります。セールス・イネーブルメントを実施することで、どのような成果を獲得したいのかを明確にし、何を実施するのかを決定して取り組むようにしましょう。
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