障害者雇用において、精神障害のある方の採用は「難しい」と感じている企業担当者は少なくありません。症状の波や必要な配慮の個別性など、身体障害や知的障害とは異なる課題があるためです。
しかし、正しい知識と適切な支援体制があれば、精神障害者の雇用は十分に成功させることができます。本記事では、精神障害者の雇用が難しいとされる原因を整理し、採用から定着までの具体的なポイントを解説します。
Contents
精神障害とは?主な分類と特徴を知る
精神障害と一口に言っても、その種類や症状はさまざまです。障害者雇用を進めるうえでは、代表的な疾患の特徴を正しく把握しておくことが欠かせません。ここでは、職場で出会う機会の多い主な精神障害について解説します。
うつ病・双極性障害の特徴と職場での影響
うつ病は気分の落ち込みや意欲の低下が長期間続く疾患で、集中力の低下や判断力の鈍化として仕事に現れることがあります。双極性障害はうつ状態と躁状態を繰り返す点が特徴で、躁状態のときには過剰な行動や判断ミスにつながる場合があります。
いずれも服薬と休養で症状をコントロールできるケースが多く、職場の理解と適切な業務調整が安定就労の鍵になります。
統合失調症の症状と就労における注意点
統合失調症は、幻覚や妄想といった陽性症状と、意欲や感情表現が乏しくなる陰性症状が主な特徴です。治療の進歩により、服薬を継続しながら働く方は増えています。
ただし、ストレスがかかると症状が再発しやすいため、業務量の調整や静かな作業環境の確保など、職場側の配慮が大切です。
不安障害・パニック障害が仕事に及ぼす影響
不安障害やパニック障害は、強い不安感や突然の発作が起きる疾患です。満員電車での通勤や大勢の前での発表など、特定の場面で症状が出やすい傾向があります。
発作そのものは一時的なものですが、「また起きるのではないか」という予期不安が出勤や業務への支障となることがあります。通勤時間の調整やリモートワークの導入が有効な対策です。
発達障害との違いと併存するケース
精神障害と発達障害は異なるカテゴリーですが、両者が併存するケースは珍しくありません。たとえば、ADHDのある方がうつ病を発症する例や、ASDの方が不安障害を抱える例があります。
併存している場合は、双方の特性を理解したうえで配慮を検討する必要があるため、主治医や支援機関との連携がより重要になります。
データで見る精神障害者の障害者雇用の実態
精神障害者の障害者雇用がどのような状況にあるのか、データをもとに確認しましょう。雇用者数や賃金、定着率などの数値を知ることで、課題の全体像が見えてきます。
精神障害者の雇用者数はどのくらい?
厚生労働省が毎年公表している「障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業で働く精神障害者の数は年々増加を続けています。身体障害者や知的障害者と比較しても伸び率が際立って高く、障害種別のなかで最も勢いのある増加傾向を示しています。
法定雇用率の算定基礎に精神障害者が加わって以降、採用に積極的な企業が増えたことが背景にあります。
正社員として働いている精神障害者の割合
厚生労働省の「障害者雇用実態調査」によると、精神障害者のうち無期契約の正社員として雇用されている方の割合は、身体障害者と比べて大幅に低い水準にとどまっています。多くの方が契約社員やパートタイムといった非正規雇用で働いており、雇用の安定性に課題が残っています。
企業側が「まずは短時間勤務から」と慎重になりやすいことが、正社員比率の低さにつながっていると考えられます。
職場定着率が低いと言われる背景
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の調査研究によると、精神障害者の就職後1年時点での職場定着率は、他の障害種別と比較して最も低い水準にあります。身体障害者や知的障害者、発達障害者との差は明確で、精神障害者は入社後比較的早い段階で離職するケースが多い傾向がみられます。
症状の悪化や職場の人間関係、業務とのミスマッチなどが主な離職理由として挙げられており、入社後のフォロー体制を整えることが定着率の改善に直結します。
精神障害者の平均賃金と他の障害種別との比較
厚生労働省の「障害者雇用実態調査」では、精神障害者の平均月収は身体障害者と比べて低い水準にあることが示されています。その主な要因は、短時間勤務の割合が高いことと、非正規雇用で働く方が多いことです。
フルタイムで働く精神障害者に限れば賃金水準は一定程度改善しますが、そもそもフルタイム勤務が難しいケースも多く、収入面の課題は根深いものがあります。
勤続年数の短さが示す課題
精神障害者の平均勤続年数は、身体障害者や知的障害者と比較して短い傾向にあります。近年は改善の兆しもみられるものの、依然として他の障害種別との差は大きいのが現状です。
勤続年数が短いと昇給やスキルアップの機会が限られ、キャリア形成の面でも不利になりがちです。長く働ける環境づくりが企業・本人双方にとっての課題といえるでしょう。
なぜ精神障害者の雇用ニーズは年々高まっているのか
精神障害者の雇用は難しいと言われながらも、企業が採用に取り組む必要性は増しています。その背景には社会的な変化と制度面の動きがあります。
精神障害の診断件数が増えている社会的要因
ストレス社会の深刻化やメンタルヘルスに対する意識の高まりにより、精神科を受診する人は増加傾向にあります。厚生労働省の「患者調査」でも精神疾患の患者数は過去最多を更新し続けており、今後もこの傾向は続くと見込まれています。
受診のハードルが下がったことで、障害者手帳を取得して就労を希望する方も増えています。
法定雇用率の引き上げが企業に与えるインパクト
法定雇用率は段階的に引き上げられており、2024年4月からは2.5%、2026年7月には2.7%に達します。雇用率を満たすためには精神障害者の採用が不可欠な状況になりつつあり、企業は受け入れ体制の整備を急ぐ必要に迫られています。
障害者雇用で精神障害の受け入れが難しいとされる理由
障害者雇用のなかでも精神障害の採用が難しいと感じる企業は多く、その理由は複合的です。ここでは代表的な6つの課題を整理します。
症状の波があり安定した勤務の見通しが立てにくい
精神障害の大きな特徴として、体調に波がある点が挙げられます。調子の良い日と悪い日の差が大きく、急な欠勤や業務パフォーマンスの変動が起こりやすいことが、企業にとって採用をためらう要因になっています。
一人ひとり異なる配慮が求められる
同じ疾患名でも、症状の出方や必要な配慮は個人によって大きく異なります。画一的なマニュアルでは対応しきれず、個別の調整が必要になる点が、現場の負担感につながっています。
職場に根強い偏見・誤解がある
「精神障害のある人は危険」「コミュニケーションが取れない」といった誤解が、いまだに職場で根強く残っているケースがあります。こうした偏見が採用の壁となるだけでなく、入社後の人間関係にも悪影響を及ぼします。
適切な業務の切り出しが進まない
精神障害者に任せる業務をどう設計すればよいかわからず、採用に踏み切れないという企業は少なくありません。既存の業務をそのまま割り当てるのではなく、負荷の少ない業務を切り出す工夫が求められます。
長期的なキャリアパスを描きにくい
短時間勤務や限定的な業務内容からスタートすることが多いため、その後のキャリアアップの道筋が不明確になりがちです。キャリアの見通しが立たないことが本人のモチベーション低下や早期離職につながるリスクがあります。
受け入れ側のマネジメント負担が大きい
精神障害者の雇用管理には、体調への配慮や定期面談、支援機関との連携など多くの業務が発生します。専任の担当者がいない企業では、現場の管理職に負担が集中しやすく、受け入れに消極的になる一因となっています。
精神障害者の障害者雇用を成功させるためのポイント
精神障害者の雇用が難しいとされる課題は、事前の準備と継続的な支援で大幅に軽減できます。ここでは、採用から定着までの具体的なポイントを紹介します。
採用前に障害特性と必要な配慮を正しく理解する
採用を検討する段階で、精神障害の基本的な知識を社内で共有しておくことが重要です。疾患ごとの特徴や想定される配慮事項を事前に学んでおけば、面接時のヒアリングもスムーズになり、ミスマッチを防ぐことができます。
業務フローや手順書を整備して不安を減らす
精神障害のある方は、曖昧な指示や暗黙のルールに不安を感じやすい傾向があります。業務の手順をマニュアル化し、優先順位や完了基準を明確にすることで、安心して業務に取り組める環境をつくることができます。
定期的な面談で体調やストレスの変化を早期にキャッチする
週1回や月2回など、定期的に上司や担当者との面談の場を設けましょう。体調の変化やストレスのサインを早い段階で把握できれば、業務量の調整や休養の提案など、悪化を防ぐ対応が可能になります。
支援機関やジョブコーチとの連携体制を構築する
企業だけで精神障害者の雇用管理を行う必要はありません。就労支援センターやジョブコーチなど外部の支援機関と連携すれば、専門的なアドバイスを受けながら安定した雇用を維持できます。
短時間勤務・在宅勤務など柔軟な働き方を用意する
いきなりフルタイム勤務を求めるのではなく、短時間勤務からスタートして徐々に勤務時間を延ばすステップアップ方式が効果的です。在宅勤務やフレックスタイムの導入も、通勤の負担軽減やストレス緩和に役立ちます。
職場全体で障害理解を深める研修を実施する
配属先のチームだけでなく、職場全体で障害に関する研修を行うことが大切です。正しい知識が広まれば偏見が減り、自然なコミュニケーションが生まれやすくなります。研修は一度きりでなく、定期的に実施することで意識を維持できます。
精神障害のある方が自分に合った職場を見つけるには
ここからは、精神障害のある方ご自身に向けた情報です。自分に合った職場を見つけるためには、複数の支援ルートを知り、活用することが重要です。
ハローワークの障害者専門窓口を活用する
ハローワークには障害者専門の相談窓口があり、障害特性に合った求人の紹介や応募書類の添削、面接対策などのサポートを無料で受けられます。地域の支援機関とのつながりも豊富なため、まず最初に相談する場としておすすめです。
就労移行支援事業所でスキルと自信を身につける
就労移行支援事業所は、働くための準備を整える通所型のサービスです。ビジネスマナーやPC操作などの訓練に加え、体調管理やストレス対処の方法も学べます。最長2年間利用でき、就職後の定着支援も受けられるため、ブランクがある方にも適しています。
障害者向け転職エージェントを利用するメリット
障害者雇用に特化した転職エージェントは、一般の求人サイトには掲載されない非公開求人を多数保有しています。キャリアアドバイザーが障害特性を踏まえた求人のマッチングを行い、応募書類の作成や面接対策、入社後のフォローまで一貫してサポートしてくれます。自分の障害をどう伝えればよいか悩んでいる方にとって、心強い味方になるでしょう。
精神障害者の就職・転職に強いおすすめ転職エージェント
転職エージェントの利用を検討するなら、精神障害者の支援実績が豊富なサービスを選ぶことが大切です。ここではエージェントの選び方とおすすめサービスを紹介します。
転職エージェントを選ぶ際にチェックすべきポイント
転職エージェントを選ぶ際は、精神障害者の支援実績があるか、担当アドバイザーが障害特性を理解しているか、入社後の定着支援があるかの3点を必ず確認しましょう。求人数の多さだけでなく、自分の状況に寄り添ったサポートが受けられるかどうかが、転職成功のカギを握ります。
おすすめの障害者特化型転職エージェント3選
精神障害のある方の転職支援に定評のあるエージェントとして、以下の3社が挙げられます。
- atGP(アットジーピー):障害者雇用の求人数が業界トップクラスで、精神障害者向けの就労移行支援も運営しています。求人紹介から定着支援までワンストップで対応してくれる点が強みです。
- dodaチャレンジ:大手人材企業のパーソルグループが運営しており、大企業の非公開求人が充実しています。キャリアアドバイザーの質にも定評があり、丁寧なカウンセリングが受けられます。
- LITALICO仕事ナビ:就労支援事業で豊富な実績を持つLITALICOが運営する転職サービスで、障害者向け求人数は業界最大級です。求人ごとに合理的配慮の内容や障害者雇用の実績が掲載されており、自分の障害特性に合った職場を探しやすい点が特徴です。障害領域専門のキャリアアドバイザーによる書類添削や面接対策も受けられます。
いずれも無料で利用できるため、複数に登録して自分に合うエージェントを見つけることをおすすめします。
精神障害のある方向けの転職サービスについては、以下の記事が参考になります。
まとめ|障害者雇用で精神障害の採用が難しい壁は正しい理解と支援で乗り越えられる
障害者雇用において精神障害の受け入れが難しいとされる背景には、症状の波や個別対応の必要性、職場の偏見など複数の課題があります。しかし、障害特性を正しく理解し、業務の整備や定期面談、外部支援機関との連携といった対策を講じることで、これらの課題は十分に解決可能です。
精神障害のある方にとっては、自分に合った職場を見つけることが安定就労への第一歩になります。ハローワークや就労移行支援、転職エージェントなどの支援をうまく活用し、無理のないペースで就職・転職活動を進めていきましょう。企業と当事者の双方が歩み寄ることで、精神障害者の雇用はもっと広がっていくはずです。



