ASD(自閉スペクトラム症)の特性により、職場で定着できず転職を繰り返してしまう方は少なくありません。厚生労働省の調査によると、発達障害者の1年後の職場定着率は71.5%で、約3割の方が1年以内に離職しています。

しかし、自分の特性を理解し、適切な環境や支援を活用すれば、長く働き続けることは十分可能です。本記事では、ASDの方が仕事を続けにくい理由や、長期就労を実現するための具体的な方法を解説します。

参照:厚生労働省「障害者雇用の促進についての関係資料」 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000178930.pdf

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ASDの方が職場で定着しにくい背景

発達障害の特性は、職場環境によって働きにくさとして表れることがあります。ここでは、ASDを中心に各発達障害の特性と職場定着の関係を見ていきましょう。

自閉スペクトラム症(ASD)の特性による影響

ASDの方は、こだわりの強さや感覚過敏、暗黙のルールの理解の難しさといった特性を持っています。そのため、急な予定変更や曖昧な指示に対応しにくく、職場でストレスを感じやすい傾向があります。また、雑談などの社交的なコミュニケーションが苦手な場合、人間関係で孤立しやすく、それが離職につながることもあります。

注意欠如多動症(ADHD)との違い

ADHDの方は、不注意や衝動性、多動性といった特性があり、ケアレスミスや期限管理の難しさが課題となります。ASDとは異なり、興味の対象がコロコロ変わりやすく、ルーティンワークに飽きやすい傾向があります。一方で、興味のある分野では高い集中力を発揮できる強みもあります。

学習障害(LD)との違い

LDの方は、読み書きや計算など特定の学習領域に困難を抱えています。ASDやADHDと併存することもありますが、知的能力全般に問題がないため、適切なツールや配慮があれば能力を十分発揮できます。書類作成や数値処理が多い業務では、支援ツールの活用が効果的です。

ASDの強みが発揮できる職種・業界

ASDの特性は、環境次第で大きな強みになります。自分に合った職種を選ぶことが、長期就労の第一歩です。

ASDの特性がプラスになる仕事の特徴

ASDの方は、細部への注意力、パターンの認識能力、一つのことへの集中力に優れています。また、興味のある分野では専門的な知識を深めることが得意です。こうした特性を活かせる仕事を選ぶことで、高いパフォーマンスを発揮できます。

集中力や正確性が求められる職種

データ入力、校正、品質管理、検査業務など、正確性と集中力が求められる仕事はASDの方に向いています。細かいミスを見逃さない観察力や、同じ作業を正確に繰り返せる能力が評価されます。IT分野でのテスターやデバッグ作業にも適性があります。

ルーティンワークが中心の職種

決まった手順で進められる業務は、予測可能性が高く安心して取り組めます。事務処理、在庫管理、図書館司書、清掃業務などが該当します。変化が少なく、マニュアルが整備された環境では、ASDの方は安定したパフォーマンスを発揮しやすくなります。

専門性を深められる職種

プログラマー、研究職、技術職、アーカイブ管理など、専門的な知識やスキルを深く追求できる職種も適しています。特定の分野への強いこだわりを活かし、高度な専門家として活躍している方も多くいます。コミュニケーションよりも技術や知識が重視される環境が向いています。

ASDの方が職場で抱えやすい悩み

実際の職場では、ASDの特性が原因でさまざまな困りごとが生じます。よくある課題を理解しておくことで、対策を立てやすくなります。

同じミスを何度も繰り返してしまう

指示の意図を誤解したり、暗黙のルールに気づけなかったりして、同じミスを繰り返すことがあります。本人は真面目に取り組んでいても、周囲からは「理解力がない」と誤解されがちです。メモを取る習慣や、指示を具体的に確認する工夫が有効です。

曖昧な指示だと行動に移せない

「適当に」「いい感じで」といった抽象的な表現や、暗黙の了解が通じにくいため、何をすればよいか分からず固まってしまいます。具体的な手順や基準を明示してもらうことで、スムーズに業務を進められるようになります。質問することを躊躇せず、明確化を求めることが大切です。

雑談や社交が負担に感じる

業務に関係のない会話や、休憩時間の雑談が苦痛に感じることがあります。社交的なコミュニケーションが苦手なため、孤立したり「協調性がない」と見られたりすることも。必要最低限のコミュニケーションは取りつつ、無理に輪に入ろうとしすぎないバランスが重要です。

業務の習得に時間がかかる

新しい業務を覚えるのに、他の人より時間がかかる場合があります。特に、口頭での説明だけでは理解しにくく、視覚的な資料やマニュアルがあると理解が進みます。一度覚えれば正確に遂行できるため、習得期間の配慮を求めることが効果的です。

早期退職を繰り返すことのリスク

転職を繰り返すことは、さまざまな面で不利益をもたらします。長期的な視点で自分のキャリアを考えることが重要です。

収入が安定せず生活が不安定になる

転職のたびに収入が途切れ、経済的な不安が増します。厚生労働省の調査では、発達障害者の平均月給は12万7,000円で、全労働者の平均(約30万円)と大きな差があります。頻繁な転職はさらに収入を不安定にし、生活設計が困難になります。

参照:厚生労働省「平成30年度障害者雇用実態調査」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05390.html

すぐ辞める習慣が身についてしまう

転職を繰り返すと、困難に直面したときに「辞める」という選択肢が最初に浮かぶようになります。問題解決や環境調整のスキルを身につける機会を失い、どこで働いても同じ問題を繰り返す悪循環に陥りがちです。粘り強く働き続ける力を育てることが大切です。

履歴書の空白期間が増える

短期間での転職が続くと、採用担当者に「定着できない人」という印象を与えます。特に1年未満の職歴が複数あると、次の就職活動で不利になります。空白期間が長くなるほど、再就職のハードルは高くなります。

自己肯定感が下がる

「また続かなかった」という経験が積み重なると、自信を失い「自分はどこでも働けない」という思い込みが強くなります。精神的な不調を招き、二次障害としてうつ状態や不安障害を発症するリスクも高まります。

ASDの方が長期就労を実現する5つの方法

仕事を長く続けるためには、自分自身の工夫と周囲のサポートの両方が必要です。以下の方法を実践してみましょう。

自分の得意・苦手を言語化する

まず、自分の特性を客観的に理解することが重要です。何が得意で何が苦手か、どんな環境なら働きやすいかを具体的に言語化しておくと、職場に配慮を求めやすくなります。医療機関や支援機関での相談、心理検査の活用も有効です。

補助ツールやアプリを積極的に使う

スマートフォンのリマインダー、タスク管理アプリ、カレンダーアプリなどを活用し、スケジュール管理や業務の抜け漏れ防止に役立てましょう。ノイズキャンセリングイヤホンで聴覚過敏に対処したり、チェックリストで作業の正確性を高めたりするのも効果的です。

ストレスを軽減する工夫を持つ

感覚過敏がある場合は、耳栓やサングラス、冷感グッズなどで対処します。休憩時間には一人になれる場所で過ごす、好きな音楽を聴くなど、自分なりのリフレッシュ方法を確立しましょう。ストレスが溜まる前に小まめに発散することが大切です。

周囲への伝え方を工夫する

配慮が必要なことは、具体的に伝えることが重要です。「曖昧な指示が苦手なので、具体的な手順を教えてください」「急な予定変更は混乱するので、事前に知らせてもらえると助かります」など、自分の困りごとと必要な配慮を明確に伝えましょう。

職場環境を見直す際の判断基準

今の職場が本当に自分に合っているか、定期的に見直すことも必要です。以下のポイントをチェックしてみましょう。

自身の特性との相性

業務内容や職場環境が、自分の特性に合っているかを確認します。感覚過敏があるのに騒がしいオフィス、対人コミュニケーションが苦手なのに接客業など、ミスマッチがあれば長続きしません。得意を活かせる環境かどうかが重要です。

雇用形態や勤務時間の柔軟性

フルタイムが難しければ、短時間勤務や在宅勤務が可能な職場を検討しましょう。体調に波がある場合は、休暇の取りやすさや時差出勤の可否も重要な要素です。働き方の選択肢が多い職場ほど、長く働き続けやすくなります。

業種・職種のマッチング度

自分の興味や強みを活かせる業種・職種かどうかを見極めます。ASDの方は興味のある分野では高い集中力を発揮できるため、関心を持てる仕事を選ぶことが定着の鍵になります。業界研究を丁寧に行いましょう。

相談できる人や場所の有無

職場に信頼できる相談相手がいるか、困ったときに助けを求められる体制があるかを確認します。孤立しやすいASDの方にとって、理解ある上司や同僚、産業医や人事担当者など、サポートしてくれる人の存在は非常に重要です。

転職を考えるならエージェントの活用も選択肢に

自分に合った職場を見つけるために、専門的な支援を受けることも有効です。

障害者雇用に強い転職エージェントとは

障害者雇用に特化した転職エージェントは、発達障害の特性を理解した上で求人紹介を行います。一般の転職サイトでは見つけにくい、配慮のある職場や理解のある企業の情報を持っています。無料で利用でき、非公開求人も多数扱っています。

具体的には、「dodaチャレンジ(求人が幅広い)」「atGP(定番エージェント)」「障害者雇用バンク(20代・30代に強み)」「LITALICO仕事ナビ(就労移行支援も検索可能)」「マイナビパートナーズ紹介(インターンシップの情報も提供)」などの転職エージェントがあり、1人ひとりに合わせたサポートを提供しています。

専門のキャリアアドバイザーに相談するメリット

キャリアアドバイザーは、あなたの特性や希望を丁寧にヒアリングし、マッチする求人を提案してくれます。履歴書の書き方や面接対策、障害の伝え方などもアドバイスしてもらえるため、一人で転職活動をするより成功率が高まります。

求人の紹介から定着支援までサポートを受けられる

転職エージェントの中には、就職後の定着支援まで行っているところもあります。入社後の悩みを相談したり、職場との調整を手伝ってもらえたりするため、長期就労につながりやすくなります。定着率の向上を目指すなら、アフターフォローが充実したサービスを選びましょう。

以下の記事では、障害者特化型の転職エージェントについてサービスごとに解説しています。

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ASDと就労に関するよくある質問

ASDと仕事に関してよく寄せられる質問にお答えします。

Q. 二次障害が出た場合の対処法は?

ASDの方は、ストレスが重なるとうつ病や不安障害などの二次障害を発症することがあります。早めに医療機関を受診し、必要に応じて休職や業務調整を検討しましょう。無理を続けると症状が悪化するため、早期の対処が重要です。産業医や人事部門への相談も有効です。

Q. 知的な遅れも就労に関係しますか?

ASDと知的障害は別のものです。多くのASDの方は知的能力に問題がなく、特定の分野では高い能力を発揮します。ただし、コミュニケーションや社会性の課題により、能力が正しく評価されないこともあります。適切な環境と支援があれば、十分に力を発揮できます。

Q. 診断書がなくても支援は受けられますか?

多くの支援サービスは診断書や障害者手帳が必要ですが、一部の相談窓口や就労支援機関は診断前でも利用できます。まずは発達障害者支援センターや地域の就労支援センターに相談してみましょう。診断を受けるかどうかも含めて、専門家に相談できます。

まとめ:ASDでも自分らしく働き続けるために

ASDの特性により仕事が続かないと悩んでいる方は多いですが、自己理解を深め、適切な環境と支援を活用すれば、長く働き続けることは十分可能です。厚生労働省の調査によると、発達障害者の雇用者数(調査から復元した推計)は令和5年度に91,000人と、5年前から52,000人増加しており、社会の理解も徐々に広がっています。

自分の得意・苦手を把握し、特性に合った職種を選ぶこと、補助ツールを活用すること、周囲に適切に配慮を求めることが、長期就労の鍵です。また、転職エージェントや就労継続支援などの専門的な支援も積極的に活用しましょう。

一人で抱え込まず、周囲のサポートを受けながら、自分らしく働ける環境を見つけていくことが大切です。

参照:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」 https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001233721.pdf