仕事中に電話をしながらメールを返す、会議の資料を作りながらチャットに対応する──。こうした「二つのことを同時にこなす」場面で、頭が真っ白になったり、ミスが増えたりして悩んでいませんか。実はこれは脳の構造上ごく自然な反応であり、あなただけの問題ではありません。

本記事では、二つのことを同時にできない原因を科学的データにもとづいて解説したうえで、今日から試せる具体的な対処法を紹介します。

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「二つのことを同時にできない」は珍しくない

「周りはうまくやっているのに自分だけできない」と感じる方は少なくありません。しかし、脳科学の研究が示す事実を知れば、その思い込みは大きく変わるはずです。ここでは、同時作業に対する脳の基本的な仕組みを確認しましょう。

人間の脳はもともと並行処理に向いていない

脳の前頭前皮質は、一度に一つの複雑な作業しか処理できない構造になっています。MITの神経科学者アール・ミラー氏は「人はマルチタスクをしていると思っていても、実際にはタスクを高速に切り替えているだけだ」と指摘しています。つまり、二つのことを「同時に」処理しているのではなく、脳が短時間で行ったり来たりしているにすぎません。

この切り替えのたびに認知資源が消耗するため、パフォーマンスが低下するのは当然のことなのです。

「同時にこなせる人」も実は高速で切り替えているだけ

職場で複数の案件をテキパキさばく人は、脳の構造が特別なわけではありません。彼らはタスクの優先順位づけや情報の整理が習慣化しており、切り替えのコストを最小限に抑えているのです。言い換えれば、能力の差ではなく「やり方の差」です。

正しい対処法を身につければ、誰でも同時進行の負担を減らすことは可能です。

二つのことを同時にできない4つの原因

「なぜ自分はうまくいかないのか」を理解することは、対処法を選ぶうえで欠かせません。ここでは、科学的に裏付けのある4つの原因を順に見ていきます。

注意のリソースが一つの作業で使い切られている

人間のワーキングメモリ(作業記憶)には容量の限界があります。大阪大学の研究では、脳の前頭連合野にあるニューロンが「今やるべきこと」だけを選択的に活性化させ、不要な情報をオフにすることで認知資源を節約していることが示されました。

一つの作業に注意を集中させている間は、もう一つの作業に回せるリソースがほとんど残らないのです。

参照:大阪大学「マルチタスクを省エネでこなす脳の仕組みを解明」(2023年)

作業を行き来するたびに脳に”再起動コスト”が発生する

認知心理学では、タスクを切り替えるときに生じるロスを「スイッチング・コスト」と呼びます。

一つの作業を中断し、別の作業に意識を向け直すたびに、脳は数百ミリ秒から数秒のあいだ「再起動」のような処理を行います。この小さなロスが一日を通して積み重なると、大幅な生産性低下につながるとされています。

情報過多で頭の中が常に渋滞している

厚生労働省「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事や職業生活に関して強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者の割合は82.7%に達しています。ストレスの内容として「仕事の量」を挙げた人は39.4%にのぼり、多くのビジネスパーソンが情報やタスクの過多に悩んでいることがわかります。

処理すべき情報が多すぎると、脳内が渋滞状態になり、二つのことを同時に処理する余裕はなくなります。

参照:厚生労働省「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)の概況

ADHD・ASDなど脳の特性が影響しているケースもある

文部科学省が2022年に実施した調査では、通常学級に在籍する小中学生のうち8.8%が「学習面又は行動面で著しい困難を示す」と報告されています。この中にはADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の特性を持つ子どもが含まれ、大人になってから初めて診断されるケースも増えています。

注意の切り替えが特に苦手な場合、発達特性が背景にある可能性も視野に入れておくとよいでしょう。

参照:文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)

無理に同時進行を続けることで起こる弊害

「頑張ればなんとかなる」と無理を続けると、仕事の質だけでなく心身にも悪影響が及びます。ここでは代表的な3つの弊害を整理します。

ケアレスミスが連鎖し手戻りが増える

注意が二つの作業に分散している状態では、確認作業がおろそかになりやすく、数字の転記ミスやメールの誤送信といったケアレスミスが発生しやすくなります。

一つのミスが次の工程に波及すると、修正のために余計な時間と手間がかかり、結果的に全体のスケジュールが押してしまいます。

どの作業も中途半端になり達成感を得にくい

複数のタスクを同時に進めていると、どれも「途中まで」の状態が長く続きます。完了した実感が得られないまま次のタスクに追われるため、仕事をしている割には成果が見えないという感覚に陥りがちです。この「終わらない感」はモチベーションの低下に直結します。

心身の疲弊が蓄積し燃え尽きやすくなる

タスクの切り替えを繰り返すと、脳はストレスホルモン(コルチゾール)を分泌しやすくなります。短期的には集中力や記憶力の低下を招き、慢性的に続けば燃え尽き症候群に至るリスクもあります。

前述の厚生労働省調査でも、ストレスの原因として「仕事の失敗、責任の発生等」(39.7%)が最多であり、ミスとストレスの悪循環が広く見られることがうかがえます。

同時作業が得意な人・苦手な人にはどんな違いがある?

得意な人と苦手な人のあいだにあるのは、生まれつきの能力差ではなく行動習慣の違いです。それぞれの特徴を知ることで、自分の改善ポイントが見えてきます。

スムーズにこなす人が実践している思考の整理術

同時進行が得意に見える人には、共通する行動パターンがあります。

たとえば「朝一番にその日のタスクを書き出し、優先順位をつけている」「メールやチャットの確認時間を決めて、それ以外の時間は通知をオフにしている」「10分以内で終わるタスクはすぐ片づけ、頭に残さない」といった習慣です。

これらはすべて、脳の切り替え回数を減らし、一つの作業に集中できる環境を自分でつくる工夫です。

苦手な人に多い「全部を一度に抱え込む」クセ

一方で苦手な人は、タスクをリスト化せず頭の中だけで管理しようとしたり、「すぐ返さなきゃ」と割り込みに即座に対応したりする傾向があります。その結果、常に複数の作業が中途半端な状態で脳にロードされ、切り替えコストが膨れ上がります。

この「抱え込みグセ」を自覚することが、改善の第一歩です。

【対処法①】一点集中で成果を出すタスク管理術

二つのことを同時にできないなら、「一つずつ確実に片づける」仕組みをつくるのが最も効果的です。ここでは、すぐに実践できる3つのテクニックを紹介します。

やることを書き出し「今やる一つ」だけに絞る

まず、抱えているタスクをすべて紙やアプリに書き出してください。頭の中に置いているだけで認知資源を消費するため、外部に出すだけで脳の負荷は大幅に減ります。

書き出したら、そのなかから「今この瞬間に取り組む一つ」だけを選び、それ以外は意識の外に置きましょう。

途中で浮かんだ別の作業は”待機リスト”に逃がす

集中しているときに限って「あ、あの件も確認しなきゃ」と別の作業が頭をよぎるものです。そんなときは、付箋やメモアプリに一言だけ書き留めて”待機リスト”に逃がしましょう。

「書いたから忘れても大丈夫」と脳に安心感を与えることで、目の前のタスクに集中し直すことができます。

制限時間を設けて区切りごとに次のタスクへ移る

一つの作業にダラダラと取り組むと、集中力が切れて逆効果になることもあります。おすすめは、25分作業+5分休憩を繰り返す「ポモドーロ・テクニック」のような時間管理法です。

制限時間を設けることで締め切り効果が働き、短い時間で密度の高い作業ができるようになります。

【対処法②】そもそも抱えるタスク量を適正化する

いくらタスク管理を工夫しても、そもそもの量が多すぎれば限界があります。タスクの総量そのものを減らす視点も持ちましょう。

重要度×緊急度の2軸で「やらない仕事」を決める

すべてのタスクに同じ力を注ぐのは非現実的です。「重要かつ緊急」「重要だが緊急でない」「緊急だが重要でない」「どちらでもない」の4象限に分類し、「どちらでもない」タスクは思い切って手放しましょう。

「やらない」と決めること自体が、集中力を守る有効な対処法です。

チーム内で得意分野ごとに担当を振り分ける

一人で複数の業務を抱えている場合、チーム内で役割を分担できないか検討してみてください。たとえば、資料作成が得意な人とデータ分析が得意な人が業務を交換するだけでも、一人あたりの同時進行タスク数は減ります。上司に相談して業務配分を見直してもらうのも有効です。

ルーティン作業は外部サービスやツールに置き換える

請求書の作成、スケジュール調整、議事録のまとめなど、定型的な作業は自動化ツールや外部サービスに任せることで、思考力が必要な業務に集中できます。限られた認知資源を「本当に自分がやるべき仕事」に振り向ける意識が大切です。

【対処法③】集中を妨げない作業環境をつくる

対処法の3つ目は環境の整備です。どれだけタスク管理を工夫しても、集中を乱す要因が周囲にあれば効果は半減します。

スマホ通知・チャットなどの割り込みを時間帯で制限する

スマートフォンの通知やビジネスチャットの着信は、そのたびに脳の切り替えコストを発生させます。集中したい時間帯は通知をオフにする、チャットの確認は1時間に1回にまとめるなど、自分なりのルールを設けましょう。

周囲に「この時間帯は返信が遅れます」と事前に伝えておくと、心理的な負担も軽くなります。

作業の合間に”何もしない数分”を挟んで脳を解放する

タスクとタスクの間に2〜3分の「何もしない時間」を設けると、脳のワーキングメモリがリセットされ、次の作業にスムーズに入れるようになります。

この間はスマホを見ない、目を閉じる、深呼吸をするだけで十分です。短い休息が、長時間の集中を支える土台になります。

対処法を試しても変わらないときに見直すべきこと

ここまで紹介した対処法を試しても改善が見られない場合は、個人の努力だけでは解決できない構造的な問題が潜んでいるかもしれません。

仕事内容や職場の構造が自分の特性と合っていない可能性

常に複数案件を同時進行する職種や、頻繁に割り込みが入る職場環境は、同時処理が苦手な人にとって大きなストレス源になります。対処法を尽くしても状況が変わらない場合、問題は「自分のスキル」ではなく「仕事と自分の相性」にあるかもしれません。

産業医やカウンセラーなど専門家の力を借りる選択肢

もし日常生活にまで支障が出ているなら、産業医やカウンセラーに相談することをおすすめします。とくに前述のADHDなど発達特性が疑われる場合は、専門的な診断を受けることで適切なサポートにつながります。

厚生労働省の「こころの耳」では、無料で電話・メール相談が可能です。

参照:厚生労働省「こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」 https://kokoro.mhlw.go.jp/

環境を根本から変えたいなら転職エージェントという手がある

対処法や専門家への相談を経ても「この職場では限界がある」と感じたなら、環境そのものを変えることも前向きな選択肢です。その際、自力で求人を探すよりも転職エージェントを活用するほうが効率的です。

定番のエージェントとして挙げられるのはリクルートエージェントです。そのほか20代・30代であればマイナビ転職AGENTもおすすめです。20代であれば、就職カレッジキャリアスタートハタラクティブも利用のハードルが低めで使いやすいでしょう。

第三者の視点で自分に合った働き方を見つけられる

転職エージェントでは、キャリアアドバイザーがあなたの強み・弱み・働き方の希望を丁寧にヒアリングしたうえで、客観的な視点から最適な求人を提案してくれます。自分では気づかなかった適性や、想像していなかった職種に出会える可能性があります。

勤務条件や業務範囲の交渉をプロに任せられる

「残業が少ない環境がいい」「一つの業務にじっくり取り組みたい」といった希望を、自分で企業と交渉するのはハードルが高いものです。エージェントはこうした条件交渉を代行してくれるため、ミスマッチを防ぎながら転職活動を進められます。

同時作業が少ない職種・求人を効率よく探せる

エージェントは非公開求人を含む幅広い情報を持っています。「マルチタスクが少ない」「一つの業務に集中できる」といった条件で求人を絞り込んでもらえるため、自分一人で探すよりも効率的に理想の職場に出会えるでしょう。

たとえば、専門職や研究開発、品質管理など、深い集中を求められる職種は同時進行の負荷が比較的少ない傾向があります。

まとめ|二つのことを同時にできない悩みは正しい対処法と環境選びで解消できる

二つのことを同時にできないのは、脳の構造上ごく自然なことです。無理に同時処理を続けるのではなく、「一つずつ片づける仕組みをつくる」「タスク量を減らす」「集中できる環境を整える」という3つの対処法を組み合わせることで、仕事の質も心の余裕も大きく変わります。

それでも職場環境との相性が悪いと感じるなら、転職エージェントを活用して自分の特性に合った働き方を探すことも立派な解決策です。大切なのは、「できない自分」を責めるのではなく、正しい対処法と環境を選ぶことです。今日からできる一歩を踏み出してみてください。