「障害者雇用だと正社員になれないのでは」という不安を抱く求職者は少なくありません。確かに契約社員からスタートする企業も多く存在しますが、厚生労働省の調査によれば、障害種別により異なるものの正社員として働く障害者の割合は増加傾向にあります。

本記事では、障害者雇用における正社員登用の実態をデータで示し、正社員を目指すために今からできる具体的な準備や転職エージェントの活用法まで詳しく解説します。

障害者雇用で正社員になれないと感じる人が多い理由

障害者雇用において「正社員になれない」という声が聞かれる背景には、企業側の雇用方針や採用プロセスに関わる複数の要因があります。まずはなぜそのように感じる人が多いのか、その理由を整理しましょう。

「契約社員スタート」が多い背景とは

障害者雇用では、最初から正社員として採用するのではなく、有期契約社員や契約社員からスタートする企業が一定数存在します。

これは企業が障害特性への配慮や業務適性を見極める期間として、数ヶ月から1年程度の契約期間を設定するためです。また法定雇用率を達成する目的で、まずは雇用実績を作ることを優先し、その後の登用を検討する企業もあります。

こうした採用方針により、求職者側は「正社員への道が閉ざされている」と感じることがあります。

正社員登用までに時間がかかるケース

契約社員として入社した後、正社員への登用制度が整備されている企業でも、実際に登用されるまでに2年から3年、場合によってはそれ以上かかることがあります。

登用には勤務実績、業務遂行能力、出勤率などの基準を満たす必要があり、評価のタイミングも年に1回から2回程度に限定されているケースが多いためです。また登用の判断権を持つ部署や上司の理解度により、登用のスピードにばらつきが生じることもあります。

企業側が慎重になる主な事情

企業が障害者の正社員採用に慎重になる理由として、配慮事項の見極めに時間を要する点が挙げられます。フルタイム勤務が可能か、通院や体調管理との両立ができるか、職場環境への適応状況はどうかといった点を確認する必要があるためです。

また過去に早期離職が発生した経験がある企業では、リスク回避の観点から契約社員での雇用を選択する傾向があります。さらに正社員化に伴う人件費の増加や、雇用の安定性を重視するあまり、登用のハードルを高く設定している企業も存在します。

なぜ正社員になれないのか?主な要因を解説

障害者雇用で正社員登用が難しいケースには、いくつかの共通した要因があります。自身の状況と照らし合わせながら確認してみましょう。

勤務時間や体調面への不安

企業側が正社員雇用を見送る大きな理由の一つが、フルタイム勤務の継続性に対する不安です。

通院や服薬管理、体調の波などにより、週5日8時間勤務が難しいと判断された場合、短時間勤務が可能な契約社員やパートタイムでの雇用を提案されることがあります。また過去の職歴で体調不良による欠勤や休職の履歴がある場合、企業は安定就労ができるかを慎重に見極める傾向があります。

こうした懸念を払拭するには、自己管理能力や対処法を具体的に示す必要があります。

業務スキル・経験不足の問題

正社員には即戦力としての期待値が高く、一定の業務スキルや実務経験が求められます。特にPC操作、ビジネスマナー、専門知識などの基礎スキルが不足している場合、まずは契約社員として経験を積むよう提案されることがあります。また障害者雇用枠での採用であっても、企業が求める業務レベルに達していなければ正社員登用は難しくなります。

スキル不足を補うためには、資格取得や職業訓練を通じて市場価値を高める努力が必要です。

配慮事項と業務内容のミスマッチ

必要な配慮と企業が提供できる業務内容にズレがある場合、正社員としての採用が見送られることがあります。たとえば物理的な環境整備が困難な場合や、配慮を要する業務が企業の主要業務と合致しない場合などです。また本人が希望する配慮内容が具体的でない、あるいは配慮の範囲が広すぎて実現が難しいと判断されるケースもあります。

企業と求職者双方にとって納得できる着地点を見つけるためには、配慮事項の優先順位を明確にし、柔軟に調整する姿勢が求められます。

早期離職リスクを懸念されるケース

過去に短期間での離転職を繰り返している場合、企業は定着性に疑問を持ちます。障害者雇用では採用から定着までに時間とコストがかかるため、企業はできるだけ長く働いてくれる人材を求めています。特に1年未満での離職が複数回ある、離職理由が曖昧、といったケースでは、まずは契約社員として様子を見たいと考える企業が多くなります。

こうした懸念を解消するには、過去の離職理由を整理し、今回は長く働ける理由を具体的に説明できることが重要です。

障害者雇用で正社員を目指すメリット

正社員として働くことには、契約社員やパートタイムとは異なる複数のメリットがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

収入と雇用の安定

正社員の最大のメリットは、雇用契約に期限がないため長期的に安定した収入を得られる点です。契約社員の場合は数ヶ月から1年程度の契約更新が繰り返されるため、更新されない可能性が常に存在します。また正社員は月給制が主流で、賞与や昇給の機会もあるため、生涯賃金が大きく異なります。

キャリア形成のしやすさ

正社員として働くことで、長期的な視点でのキャリア形成が可能になります。

企業の研修制度や教育プログラムを利用でき、スキルアップの機会が豊富です。また責任ある業務を任される機会が増えるため、実務経験を積みながら専門性を高めることができます。昇進や昇格のチャンスもあり、将来的には管理職やリーダーポジションを目指すこともできます。

こうしたキャリアパスが明確なことは、長く働くモチベーションにもつながります。

社会的信用の向上

正社員という雇用形態は、社会的な信用を得やすいという側面があります。

住宅ローンやクレジットカードの審査、賃貸契約などの場面で、正社員であることが有利に働くケースが多くあります。また福利厚生が充実しており、社会保険や退職金制度、住宅手当、家族手当などの各種手当を受けられることも大きな利点です。

こうした経済的・社会的な安定は、生活の質を向上させ、自己実現の基盤となります。

正社員として働く際に知っておきたい注意点

正社員にはメリットがある一方で、契約社員やパートタイムとは異なる責任や負担が生じることも理解しておく必要があります。

責任範囲が広がる可能性

正社員になると、任される業務の範囲や責任が大きくなります。

納期のある重要なプロジェクトを担当したり、後輩の指導を任されたりすることもあります。また繁忙期には残業を求められることがあり、自分のペースで働きたいという希望と折り合いがつかない場合もあります。

こうした責任の増大が、体調管理や障害特性との兼ね合いで負担になる可能性があることを認識しておく必要があります。

異動や配置転換の可能性

正社員の場合、会社の方針により部署異動や勤務地の変更を命じられることがあります。環境の変化に敏感な特性がある場合、こうした異動がストレスとなり、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。

また新しい環境で一から配慮事項を説明し、理解を得る必要が生じることもあります。異動の可能性については採用時に確認し、必要に応じて異動制限などの配慮を交渉することも検討しましょう。

業務負担とのバランス

正社員として期待される成果と、自身の障害特性や体調管理とのバランスを取ることが課題になる場合があります。周囲と同じペースで業務をこなすことが求められ、配慮を受けにくくなるケースもあります。また「正社員なのだから」という期待値の高さがプレッシャーとなり、かえって体調を崩してしまうリスクもあります。

自分が無理なく長く働ける働き方を見極め、必要な配慮については入社前にしっかりと確認・交渉しておくことが重要です。

正社員化を目指すために今からできる準備

正社員として採用されるためには、企業が求める要件を満たし、自分自身の強みを明確にする準備が必要です。以下の4つのポイントを押さえましょう。

自身の障害特性を正確に把握する

正社員として長く働くためには、自分の障害特性を正確に理解し、どのような環境であれば安定して働けるかを言語化できることが重要です。得意なこと、苦手なこと、必要な配慮、ストレスへの対処法などを整理しておきましょう。また医師や支援者と連携し、体調管理の方法を確立しておくことも大切です。

企業の面接では、こうした自己理解の深さが評価されます。

安定就労の実績を積む

正社員登用で重視されるのが、安定した就労実績です。就労移行支援事業所での訓練や、アルバイト・パート、短期の契約社員などで継続的に働いた経験があると、企業は安心材料として評価します。

特に週5日、1日6時間以上の勤務を数ヶ月以上継続した実績があれば、フルタイム勤務への適性を示す根拠となります。また欠勤や遅刻が少ない、体調管理ができているといった点も重要な評価ポイントです。

実務に直結する資格・スキルを習得する

正社員として求められる業務レベルに到達するため、実務で役立つ資格やスキルを習得しましょう。

事務職であればMOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)、簿記、ビジネス実務法務検定などが有効です。IT系であれば基本情報技術者、プログラミング言語の習得などが評価されます。また業界特有の資格や、英語力などの汎用性の高いスキルも市場価値を高めます。

資格取得は自己学習能力の証明にもなり、向上心をアピールできます。

コミュニケーション力を高める

正社員として働く上で、報告・連絡・相談といった基本的なコミュニケーション能力は不可欠です。特に障害特性による困りごとを適切に伝え、必要な配慮を依頼できる力は重要です。就労移行支援事業所でのグループワークや、ビジネスマナー研修などを通じて、職場で求められるコミュニケーションスキルを磨きましょう。

また他者の意見を聞く力、チームで協力する力なども評価されるポイントです。

正社員を目指すなら転職エージェントの活用が近道

障害者雇用で正社員を目指す際、転職エージェントを活用することで効率的に希望の求人を見つけることができます。具体的には、「dodaチャレンジ(求人が幅広い)」「atGP(定番エージェント)」「障害者雇用バンク(20代・30代に強み)」「LITALICO仕事ナビ(就労移行支援も検索可能)」「マイナビパートナーズ紹介(インターンシップの情報も提供)」などの転職エージェントがあり、1人ひとりに合わせたサポートを提供しています。

障害者雇用専門エージェントの強み

障害者雇用に特化した転職エージェントは、一般の転職サービスにはない専門性を持っています。障害特性への理解が深く、企業との橋渡し役として配慮事項の調整をサポートしてくれます。また企業の障害者雇用に対する本気度や職場環境、定着率などの内部情報を把握しているため、ミスマッチを防ぐことができます。さらに応募書類の添削や面接対策、入社後のフォローアップなど、総合的なサポートを受けられる点も大きなメリットです。

非公開求人を紹介してもらえる可能性

転職エージェントが保有する求人の中には、一般には公開されていない「非公開求人」が多数あります。

これらは企業が信頼できるエージェントにのみ紹介を依頼している優良案件で、正社員採用の求人も含まれています。非公開求人は競争率が比較的低く、また企業側も採用意欲が高いため、選考がスムーズに進むケースが多いと言えるでしょう。とくに「エージェント・サーナ」は非公開求人を多数保有しています。

複数のエージェントに登録することで、より多くの非公開求人にアクセスすることが可能です。以下の記事では、障害者特化型の転職エージェントについてサービスごとに解説しています。

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面接対策や条件交渉のサポート

転職エージェントを利用する大きなメリットの一つが、面接対策と条件交渉のサポートです。

企業ごとの選考傾向や重視するポイントを事前に教えてもらえるため、効果的な準備ができます。また障害特性の伝え方や、配慮事項の依頼方法についてもアドバイスを受けられます。

さらに給与や勤務条件、配慮内容などの交渉を代行してくれるため、直接は言いにくいことも適切に伝えてもらえます。

自分に合った企業を客観的に提案してもらえる

転職活動では、自分の希望と客観的な適性を照らし合わせることが重要です。

転職エージェントのキャリアアドバイザーは、これまでの経験やスキル、障害特性、希望条件などを総合的に判断し、マッチする企業を提案してくれます。また自分では気づかなかった強みや、想定していなかった業界・職種の可能性を示してくれることもあります。

第三者の視点を取り入れることで、選択の幅が広がり、より満足度の高い転職が実現できます。

まとめ

障害者雇用において正社員になることは決して不可能ではありません。令和5年度の調査では、身体障害者の約6割、精神障害者や発達障害者でも3割以上が正社員として働いています。契約社員からのスタートが多い背景には企業側の慎重な姿勢がありますが、安定就労の実績を積み、必要なスキルを習得することで正社員への道は開けます。自身の障害特性を正確に把握し、適切な配慮を求めながら、長期的なキャリア形成を目指しましょう。

また転職エージェントを活用することで、正社員採用に積極的な企業との出会いや、効果的な選考対策が可能になります。焦らず着実にステップを踏んでいくことが、正社員としての安定した働き方を実現する鍵となります。