「発達障害があっても公務員として働けるのだろうか」と不安を感じている方は少なくありません。結論から言えば、発達障害のある方でも公務員になることは十分に可能です。国や地方自治体では障害者採用枠が設けられており、法定雇用率の引き上げに伴って採用の門戸は年々広がっています。
一方で、試験対策の負担や配属後のミスマッチなど、事前に知っておくべき注意点も存在します。本記事では、発達障害のある方が公務員を目指す際に押さえておきたいポイントを、データや具体的な対策とともに網羅的に解説します。
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発達障害の方が公務員として働く3つの選択肢
発達障害のある方が公務員を目指す場合、大きく分けて3つのルートがあります。それぞれ受験資格や試験内容、採用後の待遇が異なるため、自分の状況に合った方法を選ぶことが大切です。以下で各ルートの特徴を確認しましょう。
一般枠で受験する
障害者手帳の有無にかかわらず、すべての方が受験できるのが一般枠です。
試験の難易度は高めですが、合格後は他の職員と同じ条件で配属されるため、キャリアの幅が広い点が魅力です。ただし、障害への配慮を受けにくい場合があるため、自分の特性を職場に開示するかどうかも含めて慎重に検討する必要があります。
発達障害の特性が日常業務に大きく影響しないケースでは、一般枠での受験を選ぶ方もいます。
障害者採用枠で受験する
障害者手帳を所持している方が対象となる採用枠です。
国家公務員の場合、人事院が実施する「障害者選考試験」があり、筆記試験は高卒程度の基礎能力試験と作文試験で構成されています。地方自治体でも独自の障害者枠採用試験を行っているところが多く、受験のハードルは一般枠より低めに設定されている傾向があります。合理的配慮として、試験時間の延長や別室受験といった対応が認められるケースもあります。
非常勤・会計年度任用職員として働く
正規の常勤職員ではなく、非常勤職員や会計年度任用職員として公的機関で働く方法もあります。各府省庁や自治体が独自に募集しており、筆記試験が免除され面接のみで選考が進むことも珍しくありません。
勤務日数や勤務時間に柔軟性があるため、まず短時間勤務から働くことに慣れたい方や、正規採用の前にお試しで公務の仕事を経験してみたい方にとって有力な選択肢です。
発達障害の方が公務員を目指すときに知っておきたい現実
公務員は安定した職業として人気がありますが、目指すうえで覚悟しておくべき点も存在します。ここでは、発達障害のある方が特に注意しておきたい4つのポイントを取り上げます。
筆記試験・面接の対策に十分な準備期間が必要になる
障害者枠であっても公務員試験では筆記試験が課されます。国家公務員の障害者選考試験では、知能分野と知識分野を合わせた30問の基礎能力試験に加え、作文試験が実施されます。
出題レベルは高卒程度とされていますが、範囲は文章理解・数的処理・社会科学など幅広く、発達障害の特性によっては集中力の維持や時間配分に工夫が求められます。半年から1年程度の準備期間を確保しておくと安心です。
障害者枠でも競争率は決して低くない
障害者枠は一般枠より受験者が少ないとはいえ、倍率が低いわけではありません。2018年に初めて実施された国家公務員障害者選考試験では、申込者8,711名に対して採用予定数676名と、名目倍率は約12.9倍に達しました。
地方自治体の障害者枠でも倍率が5〜10倍を超えることは珍しくなく、「障害者枠なら簡単に受かる」という認識は持たないほうがよいでしょう。
希望する部署に配属されるとは限らない
公務員は人事異動が定期的に行われるため、自分の希望どおりの部署で働き続けられる保証はありません。発達障害の方の場合、環境の変化が大きなストレスになることもあるため、異動のたびに新しい業務や人間関係に適応する必要がある点はあらかじめ理解しておきましょう。
ただし、合理的配慮の一環として、特性に配慮した配属を相談できるケースもあります。
職場での合理的配慮には限界がある場合もある
法律上、公的機関には障害者への合理的配慮の提供が義務づけられています。しかし現実には、上司や同僚の障害への理解度、業務の繁忙状況、部署の人員体制などによって、希望する配慮が十分に受けられないケースもあります。
入庁前に自分が必要とする配慮を具体的に言語化しておき、採用面接や配属時にしっかり伝えることが重要です。
それでも発達障害の方に公務員をおすすめできる理由
公務員を目指すうえでの厳しい側面をお伝えしましたが、それを踏まえてもなお、発達障害のある方にとって公務員は魅力的な就職先です。ここでは主な4つのメリットを紹介します。
民間企業の障害者雇用より収入水準が高い傾向がある
公務員の給与は俸給表に基づいて支給されるため、障害の有無による差はありません。
国家公務員の障害者選考試験で採用された場合の初任給は行政職俸給表(一)1級で月額148,600円が基本となり、職歴等に応じて加算されます。諸手当も含めると、民間企業の障害者雇用枠の平均的な給与水準を上回ることが多く、長期的に見た生涯収入の面でも有利です。
雇用の安定性が高く長く働き続けやすい
公務員は法律で身分が保障されており、業績悪化によるリストラや倒産のリスクがありません。
発達障害のある方にとって、「いつ職を失うかわからない」という不安がないことは精神的な安定につながります。定年まで同じ組織で働き続けられるため、長期的なライフプランも立てやすいでしょう。
福利厚生・休暇制度が手厚い
公務員は年次有給休暇が年間20日付与されるほか、夏季休暇や病気休暇、介護休暇など多様な休暇制度が整っています。土日祝日が基本的に休みの部署も多く、生活リズムを一定に保ちやすい点は、発達障害の方にとって大きなメリットです。
通院のために定期的に休暇を取る必要がある場合も、制度として認められているため利用しやすい環境です。
法定雇用率の引き上げで採用枠が拡大している
国や地方公共団体の障害者法定雇用率は、2024年4月に2.8%へ引き上げられました。さらに2026年7月には3.0%への引き上げが予定されています。厚生労働省の「令和6年 障害者雇用状況の集計結果」によれば、国の機関の実雇用率は3.07%、都道府県は3.05%、市町村は2.75%と、公的機関全体で障害者雇用が着実に進んでいます。
この流れを受けて、今後も障害者向けの採用枠は拡大していく見込みです。
参照:厚生労働省「令和6年 障害者雇用状況の集計結果」
参照:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
発達障害の特性別に見る公務員の向き・不向き
発達障害と一口に言っても、ASD・ADHD・LDではそれぞれ特性が異なります。公務員の仕事との相性も特性によって変わるため、自分に当てはまるタイプの傾向を把握しておきましょう。
ASD(自閉スペクトラム症)の場合
ASDの方はルーティンワークや規則に沿った作業が得意な傾向があります。公務員の業務には法令や規則に基づく定型的な事務処理が多いため、こうした特性が強みになりやすいです。
一方で、対人コミュニケーションや暗黙のルールへの対応に苦手意識がある場合は、窓口業務や調整業務の多い部署では負担を感じることがあります。
ADHD(注意欠如・多動症)の場合
ADHDの方は、注意力の持続やケアレスミスの防止に課題を感じることがあります。公務員の事務作業は正確性が求められるため、ミスが許されにくい環境にストレスを覚える場面があるかもしれません。
しかし、マルチタスクへの対応力や行動力を活かせる部署も存在します。チェックリストの活用やダブルチェック体制の導入など、職場と相談して工夫できる余地はあります。
LD(学習障害)の場合
LDの方は、読み書きや計算の一部に困難があるケースが多いです。公務員試験では筆記試験が大きなハードルになることがありますが、障害者枠の試験では試験時間の延長や拡大文字による出題といった合理的配慮が受けられる場合があります。
入庁後も、資料の読み上げソフトの利用やICTツールの活用など、職場環境の調整によってカバーできる範囲は広がっています。
「障害者雇用の公務員=勝ち組」と言われる背景と注意点
インターネット上では「障害者雇用で公務員になれたら勝ち組」という声を目にすることがあります。この言葉の背景にある事実と、鵜呑みにすべきでない理由の両面を確認しましょう。
待遇面だけを見れば恵まれているのは事実
前述のとおり、公務員は給与・雇用の安定性・福利厚生のいずれをとっても、民間企業の障害者雇用と比較して恵まれた条件がそろっています。ボーナスや退職金の支給もあり、経済的な基盤を築きやすいことから「勝ち組」と評されるのも無理はありません。
特に、雇用期間の定めがなく長期的に働ける点は、安心感において大きなアドバンテージです。
入庁後のミスマッチで離職するケースもある
しかし、待遇が良くても自分の特性と業務内容が合わなければ、働き続けることは困難です。実際に、障害者枠で採用されたものの、職場の人間関係や業務内容にうまく適応できず離職に至るケースは報告されています。
「公務員になること」をゴールにするのではなく、「公務員として長く働き続けられるか」という視点で自分の特性と向き合うことが大切です。
発達障害の方が公務員試験を突破するための具体的な対策
公務員試験を突破するには戦略的な準備が欠かせません。ここでは、受験先の選び方から筆記・面接対策までの流れを解説します。
受験先の選び方と情報収集のポイント
まずは国家公務員と地方公務員、どちらを目指すかを決めましょう。国家公務員の障害者選考試験は人事院が一括で実施しますが、地方自治体は自治体ごとに試験時期や内容が異なります。
各自治体の採用ページや人事院の「採用情報NAVI」をこまめにチェックし、受験スケジュールを把握することが第一歩です。複数の自治体を併願する戦略も有効です。
筆記試験を効率よく対策する勉強法
障害者枠の筆記試験は高卒程度が中心ですが、出題範囲は広いため、頻出分野に絞った学習が効率的です。特に数的処理や文章理解は配点が高い傾向があるので優先的に取り組みましょう。
市販の公務員試験対策テキストを使い、過去問演習を繰り返すのが王道の勉強法です。発達障害の特性に応じて、短時間集中型の学習サイクルを取り入れたり、視覚的な教材を活用したりする工夫も効果的です。
面接で障害特性をどう伝えるかの準備
面接では「どのような配慮があれば力を発揮できるか」を具体的に伝えることが求められます。自分の障害特性を客観的に説明し、「得意なこと」「苦手なこと」「必要な配慮」を簡潔に整理しておきましょう。
事前に就労移行支援事業所やハローワークの障害者窓口で模擬面接を受けておくと、本番で落ち着いて受け答えができるようになります。
公務員以外にも目を向けよう|発達障害の方に合った働き方
公務員だけが正解ではありません。発達障害の方が自分らしく働ける場は民間にも多く存在します。視野を広げて、自分に最も合った働き方を探してみましょう。
民間企業の障害者雇用枠で働く
民間企業の障害者雇用枠は、公務員に比べて求人数が圧倒的に多いのが特徴です。厚生労働省の「令和6年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業で雇用されている障害者数は677,461.5人に達し、21年連続で過去最高を更新しています。
特にIT企業やメーカーなど、発達障害の特性を活かせる職種を持つ企業も増えており、自分の得意分野を活かしたキャリア形成が可能です。
参照:厚生労働省「令和6年 障害者雇用状況の集計結果」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_47084.html
特例子会社で自分のペースを大切にして働く
特例子会社とは、障害者の雇用促進を目的として親会社が設立した子会社のことです。令和6年6月時点で全国に614社が認定されており、雇用されている障害者数は50,290.5人に上ります。
障害への理解が深い環境で、業務内容やペース配分に配慮を受けながら働けるため、初めて就職する方や職場定着に不安のある方にとって安心感のある選択肢です。
在宅ワーク・フリーランスという選択肢
通勤の負担や対人関係のストレスを避けたい方には、在宅ワークやフリーランスも有力な選択肢です。Web制作やデータ入力、プログラミングなど、パソコンを使った仕事は在宅で完結しやすく、発達障害の方が自分のペースで取り組みやすい領域です。
最近ではクラウドソーシングを活用して段階的に仕事量を増やしていくことも可能で、働き方の自由度が高い点が魅力です。
発達障害の方の就職・転職を成功させるなら転職エージェントの活用がおすすめ
公務員を目指すにしても民間企業を検討するにしても、就職・転職活動をひとりで進めるのは大きな負担です。障害者専門の転職エージェントを活用することで、自分に合った職場を効率よく見つけることができます。
障害者専門の転職エージェントを利用するメリット
障害者専門の転職エージェントは、企業の障害者雇用実績や職場環境、配慮体制といった情報を豊富に持っています。自分ひとりでは見つけにくい非公開求人を紹介してもらえるほか、履歴書の添削や面接対策、入社後の定着サポートまで一貫した支援を受けられます。
発達障害の特性を理解したキャリアアドバイザーに相談できるため、ミスマッチのリスクを大幅に減らすことが可能です。
おすすめの障害者向け転職エージェント3選
代表的な障害者専門エージェントとしては、「dodaチャレンジ」「atGP(アットジーピー)」「LITALICO仕事ナビ」などがあります。dodaチャレンジは大手パーソルグループが運営し求人数が豊富、atGPは就労移行支援との連携が強み、LITALICO仕事ナビは発達障害を含む幅広い障害種別に対応しています。
複数のエージェントに登録して比較することで、より自分に合った求人と出会える確率が高まります。上記のほかにも、「障害者雇用バンク(20代・30代に強み)」「マイナビパートナーズ紹介(定着支援も提供)」「かべなし求人ナビ(就労移行支援・就労継続支援も検索可能)」「エージェント・サーナ(非公開求人が豊富)」などの転職エージェントがあり
エージェントを最大限活用するためのコツ
転職エージェントを活用する際は、自分の障害特性と希望条件を遠慮なく正直に伝えることが重要です。「こういう場面で困りやすい」「こういう環境なら力を発揮できる」といった具体的な情報を共有することで、アドバイザーがより精度の高いマッチングを行えるようになります。
また、紹介された求人を受け身で待つだけでなく、自分からも積極的に質問や相談をすることで、サポートの質はさらに高まります。
まとめ|発達障害の方が公務員を目指すなら正しい情報と専門家のサポートがカギ
発達障害のある方が公務員として働くことは、法定雇用率の引き上げや合理的配慮の浸透によって、以前より現実的な選択肢になっています。安定した収入、手厚い福利厚生、長期雇用の安心感といったメリットは非常に大きいものです。
一方で、試験対策の負担や倍率の高さ、配属後のミスマッチといったリスクを正しく把握し、事前に対策を講じておく必要があります。自分の特性を客観的に理解し、必要な配慮を具体的に言語化できるようになることが、就職後の職場定着にも直結します。
公務員だけにこだわらず、民間企業の障害者雇用枠や特例子会社、在宅ワークなど幅広い選択肢に目を向けることも大切です。障害者専門の転職エージェントを活用すれば、プロのサポートを受けながら、自分に最も合った職場を効率的に見つけることができます。まずは情報収集と専門家への相談から始めてみてはいかがでしょうか。




