ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)を併発している方は、一見相反する特性が共存することで独自の働きづらさを感じることがあります。しかし、その複雑な特性こそが、特定の職種では大きな強みになる可能性があります。

本記事では、併発者ならではの能力パターンを理解し、自分に合った仕事を見つけるための具体的な方法を解説します。公的支援機関や専門エージェントの活用法まで、実践的な情報をお届けします。

Contents

ASDとADHDを両方持つ人の”二重の特性”を理解しよう

初めに、ASDとADHDを併発した場合の特性について確認します。

併発によって現れる独自の能力パターン

ASDとADHDの併発率は決して低くありません。研究によると、ASDと診断された人の約30〜50%がADHDの特性も併せ持つとされています。この「二重の特性」により、単独の場合とは異なる独特な能力パターンが生まれます。

例えば、ASDの体系的思考とADHDの多角的視点が融合することで、問題解決において独創的なアプローチが可能になることがあります。一方で、両特性が互いに干渉し合い、日常生活や仕事において予測しにくい困難を生じさせることもあります。

ASDの「緻密さ・論理性」×ADHDの「瞬発力・柔軟性」

ASDの特性である細部への注意力、パターン認識能力、論理的思考は、専門性を要する仕事で強みとなります。一方、ADHDの特性である瞬間的なひらめき、好奇心の広さ、状況への即応性は、クリエイティブな場面で力を発揮します。

この二つが組み合わさると、「細かいデータ分析を正確に行いながら、そこから革新的なアイデアを生み出す」といった独自の強みが生まれる可能性があります。ただし、これらの特性をうまく活用できる環境とタイミングを見極めることが重要です。

「ルーティンへの固執」と「新しさへの渇望」が交差する心理

併発者が最も戸惑うのが、ASDの「予測可能な環境を好む」傾向と、ADHDの「刺激や変化を求める」傾向の衝突です。朝のルーティンを崩されるとパニックになる一方で、同じ作業の繰り返しには耐えられないという矛盾した感覚に悩む方は少なくありません。

この心理的葛藤は、仕事選びにおいても重要なポイントとなります。「基本的な枠組みは一定だが、その中で創意工夫の余地がある」といったバランスの取れた職種が、併発者には適している可能性があります。

診断を受けて分かった”働きづらさ”の正体

多くの併発者は、診断を受けるまで「自分はただ怠けているだけ」「努力が足りない」と自分を責めてきた経験を持ちます。しかし診断により、職場での困難が脳の情報処理の特性に起因することが理解でき、適切な対処法を探ることが可能になります。

例えば、「会議中にメモを取れない」「複数の指示を覚えられない」といった課題は、ワーキングメモリの特性によるものと分かれば、ボイスレコーダーの使用やタスク管理アプリの導入など、具体的な解決策を講じることができます。

【実例付き】併発者が力を発揮できる職種・業界20選

次に、特性をもとにASDとADHDの併発者が力を発揮できる職種・業界をご紹介します。

【専門知識×没頭力】技術職・研究開発系の仕事

プログラマー、システムエンジニア、データサイエンティスト、研究員などの技術職は、併発者の強みが活きる代表的な職種です。論理的思考と深い集中力が求められる一方、一定の裁量権があり自分のペースで進められる環境が多いためです。特にIT業界では発達障害への理解が進んでおり、リモートワークやフレックスタイム制度を導入している企業も増えています。

興味のある分野であれば、ADHDの「過集中」とASDの「探究心」が相乗効果を生み、高い専門性を獲得できる可能性があります。

【発想力×こだわり】デザイナー・クリエイター系の仕事

グラフィックデザイナー、Webデザイナー、イラストレーター、動画編集者、ライターなどのクリエイティブ職も適性がある分野です。ADHDの豊かな発想力と、ASDの細部へのこだわりが融合することで、独創的でありながら完成度の高い作品を生み出せる可能性があります。フリーランスとして働く選択肢もあり、自分の得意な時間帯や環境で作業できる点も魅力です。

ただし、締め切り管理やクライアントとのコミュニケーションには工夫が必要です。

【正確性×システム思考】データ分析・品質管理系の仕事

データアナリスト、品質管理担当者、経理・会計、校正・校閲などの仕事は、ASDの正確性とパターン認識能力が特に活きる分野です。ルールに基づいた作業が中心となるため、予測可能性が高く安心して取り組めます。一方で、データから新たな洞察を見出す場面ではADHDの多角的視点が役立ちます。

特に品質管理やテストエンジニアの分野では、「普通の人が見落とすような細かいバグを見つける能力」が高く評価されることがあります。

【自己完結×マイペース】フリーランス・在宅ワーク系の仕事

翻訳者、Webライター、オンライン講師、プログラマー、ハンドメイド作家などのフリーランス業は、自分のペースで働ける点が大きな利点です。通勤のストレスや職場の感覚刺激から解放され、自分に最適な環境を整えられます。ADHDの「興味のある分野への没頭」とASDの「一人での作業の得意さ」が活かせます。

ただし、収入の不安定さやセルフマネジメントの難しさもあるため、最初は副業から始めるなど段階的なアプローチが推奨されます。

【ルーティン×集中】事務・バックオフィス系の仕事

データ入力、書類整理、在庫管理、図書館司書などのルーティン業務は、ASDの「決まった手順を正確に実行する能力」が活きます。人との対面コミュニケーションが比較的少なく、静かな環境で集中して作業できる職場を選べば、安定して力を発揮できる可能性があります。

ただし、ADHDの「飽きやすさ」への対策として、業務の中に小さな変化や達成感を見出す工夫が必要です。例えば、効率化の提案を積極的に行うなど、自分なりの楽しみ方を見つけることが継続のコツです。

逆に注意!併発者が苦戦しやすい職場環境の3つの特徴

逆にASDとADHDを併発している方にあまりおすすめできない職場について、環境の特徴を解説します。

特徴①:複数の業務を同時並行で求められる現場

飲食店のホールスタッフ、コールセンターのオペレーター、救急医療現場など、常に複数のタスクを同時進行する必要がある職種は、併発者にとって大きな負担となることがあります。ASDのシングルタスク傾向とADHDのワーキングメモリの課題が重なり、優先順位の判断や作業の切り替えに困難を感じやすいためです。

突発的な対応が求められる環境では、パニックや強い疲労を引き起こす可能性もあります。自分のペースでひとつずつ丁寧に取り組める環境の方が、能力を発揮しやすいでしょう。

特徴②:「空気を読む」文化が強い組織

暗黙のルールや察することが重視される職場、頻繁な飲み会や社内イベントが多い会社などは、ASDのコミュニケーション特性により強いストレスを感じる可能性があります。明文化されていない期待に応えることや、表情やニュアンスから相手の意図を読み取ることに困難を感じる方は少なくありません。

理想的なのは、業務の指示が明確で、評価基準が客観的に示されている職場です。外資系企業やIT企業など、合理的なコミュニケーションスタイルの組織の方が働きやすいケースもあります。

特徴③:感覚刺激が過剰な職場(音・光・人混み)

オープンオフィスでの電話音や雑談、強い照明、人の多い接客現場などは、感覚過敏を持つ併発者にとって大きな負担です。ASDの感覚過敏とADHDの注意散漫が組み合わさると、集中力の維持が極めて困難になります。発達障害者の職場定着においては「環境調整」が重要な要素とされています。

可能であれば、静かな個室やパーテーションで区切られたスペース、リモートワークなど、感覚刺激をコントロールできる環境を選ぶことが重要です。

自分に合った仕事を見つける【6つの実践ステップ】

次に、自分に合った仕事を見つけるためのステップを見ていきましょう。

ステップ①:強み・弱みの「見える化」シートを作る

まず、自分の特性を客観的に把握することから始めましょう。紙やスプレッドシートに「得意なこと」「苦手なこと」「好きな環境」「避けたい状況」を書き出します。具体例として「数字の照合作業は得意」「電話対応は苦手」「静かな環境が好き」「急な予定変更は苦手」などです。可能であれば、家族や信頼できる友人、支援者にも意見を聞くと、自分では気づかなかった強みが見つかることがあります。

この作業は、求人を選ぶ際の明確な基準となり、面接で配慮を依頼する際の根拠にもなります。

ステップ②:雇用形態の違いを比較する(一般/障害者雇用)

日本では、一般雇用と障害者雇用という選択肢があります。

障害者雇用では、企業が法定雇用率を達成するために積極的に採用を行っており、合理的配慮を受けやすいメリットがあります。令和5年度の障害者雇用促進法改正により、法定雇用率は段階的に引き上げられており、企業の採用ニーズは高まっています。一方、職種や給与面で制約を感じるケースもあります。

一般雇用では選択肢は広がりますが、特性への配慮を得にくい場合もあります。自分の状況や希望に応じて、どちらが適しているか慎重に検討しましょう。

ステップ③:配慮事項を事前に確認・交渉する方法

入社前に、どのような配慮が可能かを確認することは非常に重要です。例えば「指示は口頭だけでなく文書でも欲しい」「静かな作業スペースを用意してほしい」「通院のための定期的な休暇を取りたい」など、具体的に伝えましょう。障害者雇用では「合理的配慮」の提供が義務付けられており、企業には過度な負担にならない範囲で配慮する責任があります。

面接時には、自分の強みを伝えた上で、「こういう環境であれば最大限力を発揮できます」というポジティブな形で伝えることがポイントです。

ステップ④:職場体験・トライアル雇用を活用する

いきなり正式雇用されるのではなく、まず職場を体験できる制度を活用することをお勧めします。

トライアル雇用は、一定の試行雇用を経て、双方が合意すれば本採用となる仕組みです。この期間中に、実際の業務内容や職場環境が自分に合っているかを確認できます。また、就労移行支援事業所では企業実習の機会を提供しており、複数の職場を体験してから就職先を決めることができます。

ミスマッチを防ぐために、ぜひ活用してください。

ステップ⑤:専門の転職エージェントに相談する

発達障害者の就労支援に特化した転職エージェントを利用することで、効率的に自分に合った求人を見つけられます。エージェントは、あなたの特性や希望を理解した上で、配慮のある企業を紹介してくれます。また、履歴書の書き方、面接対策、企業との配慮交渉など、就職活動全般をサポートしてくれます。特に初めての就職や転職では、専門家のサポートがあることで不安が軽減され、成功率も高まります。

次のセクションで、具体的なエージェントの選び方を詳しく解説します。

ステップ⑥:入社後のフォロー体制を確認する

就職して終わりではありません。入社後にどのようなサポートが受けられるかも重要です。企業によっては、定期的な面談、ジョブコーチの配置、メンター制度などを用意しているところもあります。また、就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターは、就職後も定着支援を行っています。

職場で困ったことがあったとき、誰に相談できるかを事前に確認し、支援体制を整えておくことで、長期的に安心して働き続けることができます。

併発者の就職・転職を支援する専門エージェント活用術

障碍者雇用には転職エージェントの活用がおすすめですが、ASDとADHD併発者向けのエージェント活用術を解説します。

障害者雇用に特化したエージェントの選び方

障害者雇用専門の転職エージェントは複数存在しますが、発達障害の支援実績が豊富なエージェントを選ぶことが重要です。具体的には、「dodaチャレンジ(求人が幅広い)」「atGP(定番エージェント)」「障害者雇用バンク(20代・30代に強み)」「LITALICO仕事ナビ(就労移行支援も検索可能)」「マイナビパートナーズ紹介(インターンシップの情報も提供)」などの転職エージェントがあり、1人ひとりに合わせたサポートを提供しています。

選定のポイントとして、

  1. 発達障害専門のアドバイザーがいるか
  2. 配慮のある企業とのネットワークがあるか
  3. 就職後の定着支援も行っているか

の3点を確認しましょう。また、対面相談が可能な地域か、オンライン対応しているかも重要です。複数のエージェントに登録し、自分に合ったサービスを比較検討することをお勧めします。

障害のある方向けの転職サービスについては、以下の記事が参考になります。

発達障害の特性を理解している担当者を見極めるポイント

担当者との初回面談で、発達障害への理解度をチェックしましょう。「ASDとADHDの併発」について説明したときの反応、過去の支援事例の有無、具体的な配慮提案ができるかなどが判断材料になります。優れた担当者は、あなたの特性を否定せず、「その特性があるからこそ活躍できる環境を探しましょう」と前向きに捉えてくれます。

また、企業側への配慮事項の伝え方についても、適切なアドバイスができるかを確認してください。担当者との相性も重要なので、合わないと感じたら変更をお願いすることも選択肢です。

エージェント利用時に伝えるべき3つの情報

エージェントに登録する際は、①診断名と主な特性(強み・弱み)、②希望する職種・業界・勤務形態、③必要な配慮事項、の3点を明確に伝えましょう。特に配慮事項については、「通勤ラッシュを避けたいため時差出勤希望」「指示は文書で欲しい」など、具体的に伝えることが大切です。

また、過去の職歴でうまくいったこと、うまくいかなかったことも共有すると、より適切な求人を紹介してもらえます。正直に伝えることで、ミスマッチを防ぎ、長期的に働ける職場と出会える可能性が高まります。

【おすすめ】ASD・ADHD支援実績のあるエージェント一覧

発達障害者の就労支援で実績のある主なエージェントとして、dodaチャレンジ、atGP(アットジーピー)、LITALICOワークス、マイナビパートナーズ紹介などがあります。それぞれ特色があり、例えばdodaチャレンジは大手企業の求人が豊富、atGPは専門職の求人に強い、LITALICOワークスは就労移行支援からの就職支援、といった特徴があります。

自分の希望や状況に合わせて、複数のサービスを比較検討することをお勧めします。

まとめ:あなたの特性は「欠点」ではなく「個性」です

ASDとADHDの併発は、確かに日常生活や仕事において複雑な課題を生み出すことがあります。しかし、その特性は決して「欠点」ではありません。緻密さと柔軟性、論理性と創造性という一見矛盾する能力を併せ持つあなただからこそ、独自の視点で問題を解決し、社会に貢献できる可能性があります。

重要なのは、自分の特性を正しく理解し、それを活かせる環境を見つけることです。本記事で紹介した職種選び、実践ステップ、支援機関の活用法を参考に、自分に合った働き方を探してください。一人で抱え込まず、専門のエージェントや公的支援機関を積極的に利用することで、就職・転職の成功率は大きく高まります。

あなたの「複雑さ」は、単純化された世界に新しい価値をもたらす個性です。自分らしく働ける場所は必ず存在します。焦らず、一歩ずつ前進していきましょう。