「発達障害があると就職できないのでは」と不安を感じていませんか。厚生労働省の「令和5年度障害者雇用実態調査」によると、民間企業で働く発達障害者は推計9万1,000人にのぼり、5年前の調査から約5万2,000人も増加しています。法定雇用率の段階的な引き上げにより、企業側の受け入れ体制も広がりつつあります。
本記事では、就職がうまくいかない原因を整理したうえで、具体的な対処法や頼れる支援サービス、転職エージェントの活用法までまとめて解説します。
参照:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します」
Contents
発達障害があると就職できないと言われる理由とは?
発達障害のある方が就職活動で壁にぶつかりやすい背景には、障害の特性と採用プロセスとのミスマッチがあります。目に見えにくい障害であるがゆえに、周囲から理解を得にくく、本人も困りごとをうまく言語化できないケースが少なくありません。
ここでは、就職が難しいと言われる主な理由を4つに分けて解説します。
自分の得意・不得意を把握しきれていない
発達障害の特性は人によって大きく異なります。ASD(自閉スペクトラム症)の方は細部への集中力が高い一方、ADHD(注意欠如多動症)の方はアイデアの発想力に優れるなど、強みと苦手の組み合わせは十人十色です。
しかし、自分の特性を客観的に理解しないまま就職活動を始めてしまうと、応募先とのミスマッチが起きやすくなります。まずは自己分析や専門機関でのアセスメントを通じて、自分の得意・不得意を整理することが第一歩です。
面接でのコミュニケーションにハードルを感じやすい
就職活動では面接が最大の関門になることが多いです。場の空気を読んで受け答えをすることや、限られた時間で自分をアピールすることに苦手意識を持つ方は少なくありません。とくにASDの方は、質問の意図を汲み取って柔軟に回答を変えることが難しい場合があります。
事前に想定質問を洗い出し、支援者とともにロールプレイを重ねることで、面接への不安を軽減できます。
複数の作業を同時にこなすことが難しい
就職活動そのものがマルチタスクの連続です。求人検索、書類作成、面接日程の調整、企業研究などを並行して進める必要があり、タスク管理が苦手な方にとっては大きな負担になります。ADHDの方は優先順位の判断に迷いやすく、締め切りを見落としてしまうこともあります。
タスクをリスト化し、一つずつ片付けるルールを設けると進めやすくなるでしょう。
職場環境や人間関係への不安が大きい
「入社後にうまくやっていけるだろうか」という不安から、応募自体をためらってしまう方もいます。感覚過敏がある場合はオフィスの音や光がストレスになることがあり、暗黙のルールが多い職場では人間関係に疲弊しやすい傾向があります。
こうした不安は、企業の職場環境を事前に確認したり、障害者雇用枠で合理的配慮を受けたりすることで緩和できます。
「就職できない」は本当?発達障害のある方の就職事情
「発達障害があると就職できない」という声を聞くと、将来に対して悲観的になりがちです。しかし実際のデータを見ると、雇用環境は改善傾向にあります。
厚生労働省の調査では、民間企業で雇用されている発達障害者は推計9万1,000人で、5年前(平成30年度調査)の3万9,000人から大幅に増加しました。法定雇用率も2024年4月に2.5%へ引き上げられ、2026年7月には2.7%へとさらに上がる予定です。
ここでは、就職の選択肢として知っておきたいポイントを整理します。
参照:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」
一般枠と障害者雇用枠の違いを理解しよう
就職の入口には、大きく分けて「一般枠」と「障害者雇用枠」の2つがあります。
一般枠は障害の有無に関係なくすべての求職者が対象で、求人数が多く給与水準も高い傾向があります。一方、障害者雇用枠は障害者手帳の所持が条件となりますが、業務内容や勤務時間に配慮を受けやすいのが特徴です。
自分が何を優先するかによって、最適な選択は変わります。
オープン就労とクローズ就労のメリット・デメリット
障害を企業に開示して働く「オープン就労」と、開示せずに働く「クローズ就労」という選択もあります。
オープン就労では合理的配慮を受けやすく、障害者職業総合センターの調査によると、障害者雇用枠で就職した発達障害者の1年後の職場定着率は約79.5%と高水準です。
一方、クローズ就労の場合は一般雇用と同じ条件で働けるため給与面で有利になる可能性がありますが、1年後の定着率は約33%にとどまります。
参照:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター「障害者の就業状況等に関する調査研究」
オープン就労とクローズ就労のどちらを選ぶかの基準と目安
どちらを選ぶかは、障害の程度、必要な配慮の内容、経済面の希望、キャリアプランなどを総合的に考慮して判断しましょう。たとえば「感覚過敏が強く静かな環境が必須」という方はオープン就労が合いやすく、「特性が軽度で配慮がなくてもパフォーマンスを発揮できる」という方はクローズ就労も選択肢に入ります。
まずは支援機関で自分の特性と希望を整理し、どちらが長く安定して働けるかという視点で検討するのがおすすめです。
就職活動を始める前に準備しておきたいこと
就職活動をスムーズに進めるためには、動き出す前の準備が重要です。発達障害のある方は、環境の変化や予定外の出来事に対応しづらい場合があるため、あらかじめ計画を立てておくことで心理的な負担を減らせます。ここでは、就活前に取り組んでおきたい4つのポイントを紹介します。
自己理解を深めて強みと配慮事項を整理する
自己理解とは、自分の特性を「強み」と「配慮が必要な点」の両面から把握することです。発達障害者支援センターや就労移行支援事業所で受けられるアセスメントを活用すると、客観的な視点で自分の特性を知ることができます。整理した内容は応募書類や面接でも使えるため、早い段階で取り組んでおきましょう。
働き方の希望条件に優先順位をつける
勤務時間、通勤距離、給与、職場環境、業務内容など、働くうえでの希望条件はたくさんあります。すべてを満たす求人を見つけるのは難しいため、条件に優先順位をつけておくことが大切です。「これだけは譲れない」というラインを明確にしておくと、求人選びで迷いにくくなります。
企業の受け入れ体制や職場環境を事前に調べる
障害者雇用枠がある企業でも、受け入れ体制は企業によって大きく異なります。支援担当者の有無、過去の障害者雇用の実績、職場見学の可否などを事前にリサーチしましょう。ハローワークの専門窓口や転職エージェントに相談すると、企業内部の情報を教えてもらえることもあります。
無理のないスケジュールで就活計画を立てる
発達障害のある方は、過密なスケジュールで体調を崩しやすい傾向があります。面接は1日1件にする、移動日と面接日を分ける、休息日を必ず確保するなど、自分のペースに合った計画を立てましょう。
スケジュール管理が苦手な方は、支援者と一緒にカレンダーやタスクアプリを使って管理するのも効果的です。
発達障害のある方が就職を成功させるためのポイント
就職活動の成功には、特性を踏まえた戦略的な取り組みが欠かせません。一人で抱え込まず、周囲の力を借りながら進めることが何より大切です。ここでは、就職を成功に導くための5つのポイントを解説します。
家族や専門スタッフの力を積極的に借りる
就職活動では判断を迫られる場面が多く、精神的な負荷がかかります。家族に相談役をお願いしたり、就労移行支援事業所のスタッフにアドバイスをもらったりすることで、客観的な視点を取り入れながら活動を進められます。支援者がいるだけで、精神的な安心感も大きく変わります。
在学中であれば早めに単位取得を済ませておく
大学生や専門学校生の場合、就職活動と学業の両立は大きな負担になります。3年次までにできるだけ単位を取り終えておくと、最終学年で就活に集中する余裕が生まれます。時間割の組み方に悩む場合は、大学の障害学生支援室に相談するのも一つの方法です。
就職に有利な資格やスキルを身につける
自分の特性に合った資格やスキルは、就職活動で大きなアピール材料になります。たとえば、正確さが求められるデータ入力の仕事にはMOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)、経理事務には簿記検定などが有効です。
資格は面接で具体的な能力の証明になるため、時間に余裕があるうちに取得を目指しましょう。
自分の特性にマッチしやすい職種を選ぶ
発達障害の特性と仕事内容の相性は、定着率に直結します。令和5年度の調査では、発達障害者が多く働いている業種は卸売業・小売業(40.5%)、サービス業(14.6%)、製造業(10.2%)の順でした。
ルーティンワークが多い仕事、マニュアルが整備された業務、一つのことに集中できる環境は、発達障害のある方にマッチしやすい傾向があります。
参照:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」
面接対策は模擬練習を繰り返して慣れる
面接は経験を積むほど緊張が和らぎます。就労移行支援事業所やハローワークでは模擬面接を受けられるため、本番前に何度も練習しておきましょう。
想定される質問への回答を事前に書き出しておき、言葉に詰まったときのフレーズも用意しておくと安心です。自分の特性や配慮事項を簡潔に伝える練習も重要です。
発達障害の方が頼れる就職支援サービス一覧
発達障害のある方が利用できる公的な支援サービスは複数あります。いずれも無料または低コストで利用でき、就職準備から職場定着まで幅広くサポートを受けられます。それぞれの特徴を理解し、自分に合ったサービスを選びましょう。
就労移行支援事業所でスキル訓練を受ける
就労移行支援事業所は、一般企業への就職を目指す障害のある方を対象に、最長2年間の職業訓練と就職支援を提供する福祉サービスです。ビジネスマナー、PC操作、コミュニケーション訓練などのプログラムがあり、就職後の定着支援も行っています。
就労定着支援を利用した発達障害者の1年後の職場定着率は約80%というデータもあり、活用するメリットは大きいといえます。
障害者就業・生活支援センターに相談する
障害者就業・生活支援センター(通称「なかぽつ」)は、就業面と生活面の両方を一体的にサポートする機関です。全国に設置されており、就職に関する相談だけでなく、日常生活の困りごとについてもアドバイスを受けられます。
就職後も継続的に相談できるため、長期的な支援を望む方に適しています。
ハローワークの専門窓口を活用する
ハローワークには「障害者専門窓口」が設けられており、障害の特性に応じた求人紹介や就職相談を受けられます。精神障害者雇用トータルサポーターや発達障害者担当のナビゲーターが配置されている拠点もあり、より専門的な支援を受けることも可能です。
利用はすべて無料で、障害者手帳がなくても相談できます。
地域の発達障害者支援センターに頼る
発達障害者支援センターは、発達障害に特化した相談窓口として各都道府県に設置されています。就労に関する相談のほか、医療機関や福祉サービスへのつなぎ役も担っています。
「自分の特性をまだよく理解できていない」「どの支援を使えばいいかわからない」という段階の方は、まずここに相談するのがおすすめです。
転職エージェントを活用して就職の可能性を広げよう
公的な支援機関に加えて、転職エージェントを活用するのも有効な選択肢です。とくに障害者雇用に特化したエージェントでは、一般の求人サイトには掲載されない非公開求人を扱っていることも多く、選択肢を大きく広げられます。
具体的には、「dodaチャレンジ(求人が幅広い)」「atGP(定番エージェント)」「障害者雇用バンク(20代・30代に強み)」「LITALICO仕事ナビ(求人豊富な定番サービス)」「マイナビパートナーズ紹介(定着支援も提供)」などの転職エージェントがあり、1人ひとりに合わせたサポートを提供しています。
発達障害のある方に転職エージェントをおすすめする理由
転職エージェントでは、キャリアアドバイザーが希望条件のヒアリングから求人紹介、書類添削、面接対策、入社後のフォローまでを一貫してサポートしてくれます。自分一人では気づきにくい強みを引き出してもらえたり、企業との条件交渉を代行してもらえたりする点が大きなメリットです。
就職活動の負担を減らしたい方にとって、心強いパートナーになるでしょう。
障害者雇用に特化したエージェントの選び方
障害者雇用専門のエージェントを選ぶ際は、発達障害の支援実績が豊富かどうかを確認しましょう。取り扱い求人数、対応エリア、定着支援の有無なども重要な判断基準です。複数のエージェントに登録して比較検討するのも一つの方法です。
初回面談で自分の特性や希望をしっかり聞いてくれるかどうかも、信頼できるエージェントかどうかを見極めるポイントになります。
発達障害のある方向けの転職サービスについては、以下の記事が参考になります。
- 「障害者向けおすすめ転職エージェント12選!条件別のおすすめもご紹介」
- 「ADHDの方におすすめの転職エージェント17選!オープン向け、クローズもOKの両方をご紹介」
- 「発達障害者向けおすすめ転職エージェント12+3選!オープン・クローズ・グレーゾーンすべて解説」
エージェントを利用する際に伝えておくべきこと
エージェントに登録したら、自分の障害特性、必要な配慮、得意な業務、苦手な業務、希望する勤務条件を具体的に伝えましょう。情報が具体的であるほど、マッチング精度が上がります。
通院頻度や服薬の状況など、働くうえで影響するポイントも正直に共有しておくと、入社後のギャップを減らすことにつながります。
まとめ|発達障害で就職できないと諦めず、支援を活かして一歩を踏み出そう
「発達障害だから就職できない」と感じることがあるかもしれませんが、雇用環境は着実に改善が進んでいます。雇用されている発達障害者は5年間で約2.3倍に増加し、法定雇用率の引き上げにより、今後も企業側の受け入れは拡大していく見込みです。大切なのは、自分の特性を正しく理解し、適切な支援を活用しながら、自分に合った働き方を見つけることです。
就労移行支援事業所やハローワーク、転職エージェントなど、頼れるサポートはたくさんあります。一人で抱え込まず、まずは相談することから始めてみてください。




