電話応対が苦手で仕事に支障が出ている方の中には、発達障害や不安障害などの障害特性が影響しているケースがあります。「電話が鳴ると体が固まる」「相手の話が頭に入らない」といった悩みは、単なる性格の問題ではなく、脳の情報処理の特性によるものかもしれません。
本記事では、電話対応が困難になる障害の種類、具体的な困りごと、そして職場でできる工夫や転職という選択肢まで、実践的な対処法を詳しく解説します。
Contents
電話対応が困難になる障害とは
電話応対の苦手さには、いくつかの障害が関係している可能性があります。ここでは代表的な3つの障害について説明します。
発達障害(ASD・ADHD)と電話応対の関係
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)の特性により、電話対応が困難になることがあります。
ASDでは視覚情報がないコミュニケーションが苦手で、相手の表情が見えない電話では意図を読み取りにくくなります。
ADHDでは注意の切り替えが難しく、突然かかってくる電話に対応しながら他の作業を続けることが困難です。また、会話の流れを予測することが苦手なため、想定外の質問にうまく答えられないこともあります。
社交不安障害による電話恐怖
社交不安障害がある方は、他者からの評価を過度に恐れるため、電話対応で強い不安を感じます。
「うまく話せなかったらどうしよう」「変なことを言って怒られるのでは」という思考が頭を支配し、電話が鳴るだけで動悸や発汗などの身体症状が現れることもあります。過去に電話で失敗した経験がトラウマとなり、電話恐怖症に発展するケースも少なくありません。
失敗への恐怖が先走り、実際の対応がさらに難しくなる悪循環に陥ります。
聴覚情報処理障害(APD)の影響
聴覚情報処理障害(APD)は、耳の機能には問題がないのに、脳での音声処理がうまくいかない障害です。
雑音がある環境では相手の声が聞き取りにくく、早口や不明瞭な話し方に対応できません。音は聞こえているのに言葉として理解できないため、何度も聞き返すことになり、相手を苛立たせてしまうこともあります。電話越しの音声は情報が限定されるため、APDの症状がより顕著に現れやすい状況です。
障害による電話対応の具体的な困りごと
障害特性によって、電話対応時にさまざまな困難が生じます。ここでは代表的な5つの困りごとを紹介します。
相手の話が聞き取れない・理解できない
聴覚過敏や聴覚情報処理の困難により、相手の声が雑音に紛れて聞き取れないことがあります。
また、聞き取れても内容を理解するまでに時間がかかり、会話のテンポについていけません。専門用語や固有名詞が出てくると、その単語を理解しようとしている間に次の話に進んでしまい、全体の文脈を見失います。
何度も聞き返すと相手に不快感を与えるのではと不安になり、分からないまま会話を終えてしまうこともあります。
複数の作業を同時進行できない
電話対応では、相手の話を聞きながらメモを取り、次に何を言うか考え、必要な資料を探すなど、複数のタスクを同時にこなす必要があります。
発達障害の特性でマルチタスクが苦手な場合、これらを並行して行うことが極めて困難です。話を聞くことに集中するとメモが取れず、メモを取ろうとすると話が頭に入りません。結果として重要な情報を聞き逃し、後で困る事態を招きます。
突然の電話でパニックになる
予期しないタイミングで電話が鳴ると、心の準備ができずパニック状態になることがあります。特にADHDや不安障害がある場合、突然の刺激に対する反応が強く出ます。
頭が真っ白になり、普段なら言えることも言葉にできなくなります。緊張のあまり声が震えたり、呼吸が浅くなったりして、余計に対応が困難になります。電話を取るまでの数秒間に不安が膨れ上がり、受話器を取った瞬間から失敗が始まっているような感覚に陥ります。
言葉がすぐに出てこない・言い間違える
電話では瞬時に適切な言葉を選んで話す必要がありますが、障害特性により言葉の検索や表出に時間がかかることがあります。言いたいことはあるのに言葉が出てこず、沈黙が続いて気まずい雰囲気になります。焦れば焦るほど頭が働かなくなり、言い間違いや敬語の誤用も増えます。
聞き取った情報を復唱しようとして違う言葉を言ってしまい、混乱を招くこともあります。電話を切った後に「あのとき正しくはこう言うべきだった」と後悔が残ります。
電話の内容を正確にメモできない
ワーキングメモリが弱いと、聞いた情報を短期的に保持することが難しく、メモを取る前に忘れてしまいます。メモを取っても、何が重要な情報かの判断ができず、すべてを書き留めようとして会話についていけなくなります。字を書くことに集中すると耳からの情報が入らず、聞くことに集中するとメモが中途半端になる、というジレンマに陥ります。
結果として、電話後に「誰から何の用件で電話があったのか」すら思い出せないことがあります。
なぜ電話対応が難しくなるのか?脳の特性から見る原因
電話対応の困難さには、脳の情報処理特性が深く関わっています。ここでは5つの観点から原因を解説します。
音への過敏性が引き起こす聞き取りの困難
感覚過敏がある場合、電話の音質や周囲の雑音が苦痛に感じられます。特定の周波数の音に過敏で、電話のベル音や受話器から聞こえる声が不快な刺激となり、集中力を奪われます。また、オフィスの環境音やキーボードのタイピング音などが気になり、電話の声だけに意識を向けることができません。
聴覚過敏があると、相手の声のボリュームや口調の変化にも過剰に反応し、内容理解よりも音そのものに意識が向いてしまいます。
ワーキングメモリの弱さと情報処理
ワーキングメモリは、情報を一時的に保持しながら処理する能力です。この機能が弱いと、相手の話を聞きながら内容を理解し、適切な返答を考え、同時にメモを取るという一連の作業が困難になります。
情報を保持できる容量が小さいため、新しい情報が入ると古い情報が消えてしまいます。会話の最初に聞いた重要な情報を、最後まで覚えておくことができず、話の全体像を把握できません。これは脳の構造的な特性であり、努力だけでは改善が難しい部分です。
特定の単語に意識が集中してしまう認知の特性
発達障害の特性として、気になる単語やフレーズが出ると、そこに意識が固定されてしまうことがあります。
例えば、相手が「至急」と言った瞬間にその言葉の意味やニュアンスを考え始め、その後の説明が耳に入らなくなります。知らない固有名詞や専門用語が出ると、その言葉を理解しようと意識がそこに留まり、会話の流れから取り残されます。
この「注意の切り替えの困難さ」は、電話のようなリアルタイムコミュニケーションで大きな障壁となります。
視覚情報がないことによる理解の難しさ
人は通常、相手の表情や身振り、資料などの視覚情報も活用してコミュニケーションを取っています。電話ではこれらの視覚的手がかりが一切ないため、音声情報だけで相手の意図や感情を読み取る必要があります。
特にASDの特性がある場合、非言語情報からの推測が苦手なため、電話では相手が何を求めているのか、どの程度急いでいるのかなどの文脈理解が困難になります。視覚優位の情報処理スタイルの人にとって、電話は非常に不利なコミュニケーション手段です。
予測できない状況への不安と緊張
電話は誰からいつかかってくるか、どんな内容かが予測できません。この不確実性が、特に不安障害や発達障害がある方にとって大きなストレスとなります。
予定外の出来事への適応が苦手な特性がある場合、突然の電話は脳がフリーズする原因になります。事前に準備できないことへの不安が常に頭にあり、電話が鳴るたびに「対応できないかもしれない」という恐怖が湧き上がります。この慢性的な緊張状態が、実際のパフォーマンスをさらに低下させる要因となっています。
職場でできる電話対応の工夫と支援
障害特性があっても、適切な工夫と支援があれば電話対応の負担を軽減できます。ここでは5つの実践的な方法を紹介します。
自分の特性を正しく把握する方法
まずは、自分がどのような場面でどう困るのかを具体的に理解することが重要です。電話対応の何が難しいのか(聞き取り、理解、返答、メモなど)を記録し、パターンを見つけます。
医療機関や発達障害者支援センターで検査を受けることで、客観的に自分の認知特性を知ることができます。自己理解が深まれば、効果的な対策を立てられます。
電話対応マニュアル・トークスクリプトの活用
定型的なやり取りをマニュアル化することで、認知的負担を大幅に減らせます。「お電話ありがとうございます」「少々お待ちください」などの基本フレーズから、よくある質問への回答まで、台本として手元に置いておきます。
視覚的に確認できる形にすることで、ワーキングメモリへの負担が軽減され、スムーズな対応が可能になります。最初は完全に台本通りに話し、慣れてきたら少しずつアレンジを加えていくという段階的アプローチが効果的です。マニュアルがあるという安心感だけでも、不安が和らぎます。
反復練習とシミュレーションの効果
ロールプレイで電話対応を繰り返し練習することで、体が自然に動くようになります。想定される様々なパターンを何度も経験することで、予測できない状況への不安が減少します。
同僚や支援者に相手役をお願いし、実際の電話機を使って練習すると、より実践的なトレーニングになります。録音して自分の話し方を確認したり、フィードバックをもらったりすることで、改善点が見えてきます。反復により神経回路が強化され、自動化された行動として電話対応ができるようになります。
静かな環境での電話対応を依頼する
聴覚過敏や聴覚情報処理の困難がある場合、周囲の雑音を遮断できる環境が不可欠です。
個室や静かな会議室での電話対応を許可してもらう、ノイズキャンセリング機能付きヘッドセットを使用するなどの配慮を依頼します。これは障害者差別解消法における「合理的配慮」に該当し、職場には提供する義務があります。
環境調整により聞き取りやすさが向上すれば、理解や対応の質も大きく改善します。具体的な困難さを説明し、必要な配慮を明確に伝えることが重要です。
メールやチャットツールへの業務変更交渉
すべての電話対応を代替することは難しくても、可能なものをメールやチャットに切り替えることで負担を減らせます。
社内連絡はチャットツール、取引先との非緊急の連絡はメールにするなど、コミュニケーション手段を選択できる環境を整えます。視覚的に情報を確認でき、返答までに考える時間が取れる文字コミュニケーションは、多くの障害特性がある方にとって適した方法です。
上司に相談し、業務の優先順位や役割分担を見直してもらうことで、より自分の強みを活かせる働き方ができます。
電話対応が少ない仕事への転職を検討する
工夫しても電話対応が困難な場合、職種や働き方を変えることも有効な選択肢です。ここでは転職を考える際のポイントを5つ紹介します。
電話応対が必須でない職種の選び方
電話対応が少ない職種としては、プログラマー、データ入力、Webデザイナー、翻訳者、清掃業務、工場の製造ラインなどがあります。これらはメールやチャットでのコミュニケーションが中心だったり、対人接触自体が少なかったりする仕事です。
求人情報を見る際は、「電話対応なし」「メール対応中心」などのキーワードに注目します。面接時には業務内容を詳しく確認し、実際に電話対応がどの程度あるのかを質問することが重要です。自分の得意分野や興味を活かせる職種を選ぶことで、長く働き続けられます。
障害者雇用枠での就職という選択肢
障害者手帳があれば、障害者雇用枠での就職が可能です。障害者雇用では、企業側が最初から配慮を前提として採用するため、電話対応が困難であることをオープンにして働けます。
週20時間以上30時間未満の短時間勤務も多く、負担を調整しやすいのが特徴です。給与は一般雇用より低い傾向がありますが、安定して長く働ける環境を得られるメリットがあります。
企業には障害者雇用の法定雇用率があり、求人も一定数あります。自分の特性に合った仕事を選びやすい制度です。
障害特性に理解のある企業の見つけ方
障害者雇用に積極的な企業や、ダイバーシティ推進を掲げる企業は、障害特性への理解が深い傾向があります。企業のWebサイトで障害者雇用の実績や、働きやすさへの取り組みを確認します。口コミサイトで実際に働く障害者の声を探すことも有効です。
特例子会社(障害者雇用のために設立された会社)は、配慮が充実している場合が多くあります。また、就労移行支援事業所や障害者職業センターから紹介される企業は、支援機関との連携実績があり、理解が期待できます。
転職エージェントを活用した適職探し
転職エージェントを利用すると、自分の希望や特性に合った求人を効率的に探せます。
一般の転職エージェントでも、電話対応が少ない職種を希望条件として伝えることで、マッチする求人を紹介してもらえます。具体的には、「dodaチャレンジ」「atGP」「障害者雇用バンク」「LITALICO仕事ナビ」「マイナビパートナーズ紹介」などの転職エージェントがあり、1人ひとりに合わせたサポートを提供しています。
キャリアアドバイザーが、履歴書の書き方や面接対策をサポートしてくれるため、転職活動の負担が軽減されます。また、企業との条件交渉を代行してくれることもあります。
複数のエージェントに登録し、それぞれの強みを活かして活用することで、選択肢が広がります。転職は人生の大きな決断なので、専門家の力を借りることは賢明な選択です。
障害者専門の転職エージェントのサポート内容
障害者専門の転職エージェント(dodaチャレンジ、atGP、ランスタッドチャレンジドなど)は、障害特性を理解した上でのサポートが受けられます。
障害をオープンにした就職活動の進め方、障害者雇用枠の求人紹介、企業への配慮事項の伝達代行などを行います。キャリアアドバイザー自身が障害に関する知識を持っているため、「電話対応ができない」という悩みを正確に理解し、それを考慮した求人を提案してくれます。就職後の定着支援を行うエージェントもあり、長期的なサポートが期待できます。
登録・利用は無料なので、まずは相談してみることをお勧めします。障害のある方向けの転職サービスについては、以下の記事が参考になります。
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まとめ:電話対応の苦手さは工夫と環境調整で改善できる
電話対応ができないことは、単なる努力不足ではなく、発達障害や不安障害などの障害特性が関係している可能性があります。聴覚過敏、ワーキングメモリの弱さ、マルチタスクの困難さなど、脳の情報処理特性が原因で、電話というコミュニケーション手段が極めて難しくなることがあります。
しかし、自己理解を深め、適切な工夫や配慮を取り入れることで、困難さは軽減できます。マニュアルの活用、練習の反復、環境調整、コミュニケーション手段の変更など、できることから始めてみましょう。職場での合理的配慮を求めることは、障害者の権利として認められています。
それでも困難が続く場合は、電話対応が少ない職種への転職や、障害者雇用枠での就職も選択肢の一つです。転職エージェントを活用することで、自分に合った働き方を見つけやすくなります。
大切なのは、自分を責めず、特性と向き合いながら、自分らしく働ける環境を探すことです。適切なサポートを活用し、無理のない働き方を実現してください。




